写本・第二
□漂風
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「お可愛らしい…」
弛緩した体を投げ出し、呼吸を整えている姿。眠たげで穏やかな目が愛欲にとろけた様子も、たまらなく愛おしい。
若く精気に溢れた肉体を受け入れて、快楽と同じだけ疲労が色濃い。
上下する薄く柔らかな皮膚を見て、汗ばんだ体温が浮かんだ。
「あなたは、本当にお可愛らしい…」
愛しいから独占したくなる。
誰にも穏やかで優しいから、縛り付けておきたい。
誰にも優しいくせに、何者にも屈さないから、征服したくなる。
その結果がこれだとは、どうしても思えないのだけれど。
上気した顔に流れる涙の跡には、どこか心の震えるような喜びを覚えた。
「あなたは、どうすれば俺のものになって下さるのか」
微笑みと共に投げかけられた問を、怯えと悲しみの入り交じった眼差しが受け止める。
その腕がゆっくり持ち上がり、頬に優しく手が触れた。
「大人を、あまりからかわないでおくれ」
一瞬、笑みが消えた。
次に浮かんだのは、残忍な微笑みの形だった。
その表情を悟って、元就は首を振った。
「だめだよ…宗茂…やめてくれ、お願いだから……」
そんな君を見たくない、と懇願する声を黙殺して、もう一度、いびつな欲情に身を任せようと決めた。
「どうすれば、あなたに思い知らせることができるのでしょうね…」
静かに囁き微笑む声は、どこか他人ごとのようだと思った。