写本・第二

□石保雪
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逃げ込むように中国を訪れた隣国の領主を、元就はあっさりと迎え入れた。

正直に言えば、今や謀反の片割れ、黒幕とまで―本人には不本意だろうが―見なされてしまっている彼の来訪は、はなはだ困ったことだ。迷惑といってよい。
それでも迎え入れてしまうのが、謀神の人の良さだ。

だから、長宗我部元親が明智光秀を伴って現れたとき、元就は心から困ってしまった。
娘婿たちさえ見放した謀反人を、義理の従兄とはいえ、肩入れして支え続ける“反骨”とは、さしもの元就も理解が難しい概念といわざるを得ない。

それ以上に、謀神の勘は、二人の間に横たわる絆の危うさを鋭く感じ取っていた。
明智光秀が持つ破滅の匂いを、彼は見逃さなかった。

(ああ、危ない危ない…)

あれは破滅へのいざないだ。
有能な循吏の下に潜む魔性――庇護する者を知らず知らず追い込み“光秀自身への救済として”破滅を教唆させる――恐るべき滅びの魔性が、元親をして謀反を示唆せしめた。
少なくとも、元就はそう感じた。




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