「秀吉は変わった」 愛用の三弦を爪弾きながら、元親は呟いた。 あまり手入れをしていないのか、少々、調子が狂っている。 耳障りだ、というように三成は顔をしかめた。 「強烈ではあったが、苛烈ではなかった」 まして、甥の妻子たちを咎なくして鏖殺するような男では、なかったはずだ。 少なくとも、元親が降伏した前後は、そうだった。 どこで箍が外れたのか、天下人は天下を喰い尽くしていった。 「秀吉様は――」 「最上の方が、亡くなったそうだ」 黄昏に緩んだ音色を乗せて、茫洋と呟く。 三成は、ぐっと両手を握り締めた。 娘のために奔走し、目の前で命が滑り落ちた、両親の無念はいかほどであっただろう。 「もう、誰も家に戻らぬ」 ――誰も、豊家には戻らぬ 「そんなことはない!」 昂然と顔を上げた愚直な能吏を、元親は見下ろす。 「皆、豊臣の下に入り、豊臣の家にいた。もう、入る者はいない。あとは出て行くばかり」 「俺が守る」 もう誰も呼ばなくなった“名前”で、敬愛する主君を呼び続ける男は、そう言った。 「俺が、守って見せる…」 元親は「無理だ」とも「できる」とも言わなかった。 もはや自分がすべきことはないと、わかっていた。 「どこへ行く」 振り向いた元親は、ちょっと、笑った。 「夕暮れだ」 すでに、外は赤い。 「蝙蝠はねぐらへ帰るさ」 ――これから長い長い夜が来る。 |