写本・第二

□調練前
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四尺の大刀を軽々と佩いた統虎は、寸分の隙なく甲冑と鎖帷子に固められた妻の戦装束を眺めた。
「勇んで陣を乱すような失態は、せぬようにな」
諫めるにしては挑発的な夫の言葉に、雷切を帯びた千代は鼻を鳴らす。
「ふん、貴様こそ、己が勇を恃んで軽はずみな真似はせぬことだ」
「その言葉、そっくりお前に返してやろう、“お嬢”」
「なっ…!」
日頃生真面目な夫の口から、まさか、あの男と同じ呼び名が出てこようとは。
してやったり、と、にんまり笑って先を歩む統虎の背中を、千代は思い切り睨み付けた。

「貴ッ様…!…それで勝ったと思うなよ!戦場で取り返してやるからな、馬鹿ぁーっ!」
館中に響かんと思うような怒鳴り声も、統虎はせせら笑って受け流す。
「はっ、やれるものならやってみよ」
「言ったな!?その言葉、忘れるでないぞ、後で吠え面かくな!」




「にぎやかですね…」
客間で茶を振舞われていた趙雲は、目をしばたかせて呟く。
彼の主君夫妻も、時折やりあうことはある。が、あの勝気な夫人も、ここまで派手ではない。
応対に出ていた薦野増時が苦笑交じりに頷くが、それでも、その笑いは温かい。
「ああやって派手にやり合うからこそ、夫婦仲がかみ合っておいでなのでは、と思いますが…」
「ああ、なるほど…」


にぎやかな夫婦が廊下を渡ってくる音が聞こえる。

兵練まで、あと数刻。






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