写本・第二

□花の宴
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「風花…」


耳に心地よい、低い声が耳朶に届いた。
視線の先を共にすれば、成程、鋭く澄み切った空を、きらきらと氷の英が渡っていく。

白い打掛を羽織った長身が、冬の峻烈な風に髪を弄ばれるがまま、冬の無情な寒さが垣間見せる幻の花を見送っている。


――連れて行かれる!


三成は思わず、その手をつかんだ。
瞬時に振り返った曹丕の目が、見慣れた男の顔を捉えて、驚いたような表情になった。

「…どうした?」

いつもと同じ静かな言葉も、耳に入らない。
まだ何か言いかけようとする唇を、自分の唇で封じてしまうと、きつくきつく抱きしめる。

「行くな……行くなよ…?」

心の震える声に、宥めるような苦笑が応える。

「どこへ行くというのだ、行く当てもないのに」

そうして、曹丕が優しく抱きしめ返しても。
三成は決して、離そうとはしなかった。

「行ってくれるな…頼むから…!」

「私は、どこへも行かぬ」


お前が望む限り、と、彼は言う。



違う


違う


――俺が恐れているのはそんなことではない。


腕の中、確かに温かく在る彼。

捉えておかねば、風に舞う何かと共に行ってしまいそうだったから。



――お前は、本当は行きたいと願っているのか?








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