「風花…」 耳に心地よい、低い声が耳朶に届いた。 視線の先を共にすれば、成程、鋭く澄み切った空を、きらきらと氷の英が渡っていく。 白い打掛を羽織った長身が、冬の峻烈な風に髪を弄ばれるがまま、冬の無情な寒さが垣間見せる幻の花を見送っている。 ――連れて行かれる! 三成は思わず、その手をつかんだ。 瞬時に振り返った曹丕の目が、見慣れた男の顔を捉えて、驚いたような表情になった。 「…どうした?」 いつもと同じ静かな言葉も、耳に入らない。 まだ何か言いかけようとする唇を、自分の唇で封じてしまうと、きつくきつく抱きしめる。 「行くな……行くなよ…?」 心の震える声に、宥めるような苦笑が応える。 「どこへ行くというのだ、行く当てもないのに」 そうして、曹丕が優しく抱きしめ返しても。 三成は決して、離そうとはしなかった。 「行ってくれるな…頼むから…!」 「私は、どこへも行かぬ」 お前が望む限り、と、彼は言う。 違う 違う ――俺が恐れているのはそんなことではない。 腕の中、確かに温かく在る彼。 捉えておかねば、風に舞う何かと共に行ってしまいそうだったから。 ――お前は、本当は行きたいと願っているのか? |