写本・第二

□晩ごはんは一緒に
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「小喬ちゃん」

あわてて振り向いた少女は、透き通るような頬を真っ赤にして、泣いていた。
愛くるしい円らな瞳は、次から次へとあふれ出る涙でとめどなく潤んで。

「阿国さん……」

ぐすん、と鼻をすすり、慌てて目をぬぐう。
泣き顔を見られたくないのか、そのまま振り返らず、恥ずかしそうに背中を丸める少女。
阿国は手にした盆を机の上へ置くと、ゆっくりと話しかけた。
「お腹、空いてへん?」
「ちょっと、空いた…」
「そう。お腹が空くのは、ええことよ。お膳、貰うてきたけど、今、食べる?」
美味そうな香りが漂ってきた。
戦の疲れと、心の疲れ、泣き疲れ。
「食べる」
ぽつん、と呟いた少女にほっとして、阿国は膳を机案の上へと運び直した。

膳をまじまじと見ていた少女は、はんなりと優しい巫女の袖を、きゅっと握った。
「阿国さん…あのね…」
「ん?」
「あの…これ…お食事ね、ちょっと、あたし一人じゃ、多いかな…って…」
だからね、と、うつむく小喬の言葉を、阿国はにこにこと待つ。
「だから」

「一緒に、食べてほしいんだけど…」

ぱちぱちと目をまたたかせる少女に、阿国はくすりと微笑む。

「ほな、お相伴させてもらいまひょ」




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