「は…?」 お前は何故、行かなかったのか。 そう問われて、郭嘉は小首をかしげた。 「何故、そんなことをお聞きになるんです…?」 訝しげに眉をひそめて問えば、主もまた、同じように眉をひそめた。 「お前ほど、父の意を見抜き、意に適う者はいない。それなのに、何故、と聞いた」 郭嘉は軽く溜息をつき、曹丕の目を見つめた。 「わかりませんね、若君の仰ることは…。今、殿はおられないんだ、いない御方を求めて放浪したって、仕方が無いでしょう」 それに、と、いきなり目と鼻の先へ顔を近づけてくる。 「今、私が仕えたいと思うのは、貴方なんですよ、若君。理由はそれだけだ」 曹丕の目が細まった。 「それじゃ、ご不満?」 にんまりと眼前で笑う軍師。 その仕草、その振る舞いは、まるで猫。 しかし、ひとたび動けば、その智謀は虎や獅子をもねじ伏せる。 勝てるか、己は。 自分を使いこなせとせまる、この天才に。 白い喉が、くっと、かすかな笑いに動いた。 「使って、くれよう」 「望むところです」 |