「言って欲しいのだろう?…“美しい”と…」 「何を…ばかな…」 「嘘なものか、お前は求めている…可愛い顔で、なあ……」 “女”として 「欲しいんだろう?」 “美しい”と ――愛されたいのだ。 反駁するより早く、唇を唇がかすめた。 「――ッ!」 鋭く息を詰めたァ千代の唇に、触れるか触れぬか元親は顔を寄せた。 「俺がくれてやろうか、ァ千代」 お前の主ほど優しくはないが、と笑う。 あからさまな挑発、恐ろしく魅惑的な作り物の微笑。 だまされるようなァ千代ではないと知っていて、わざと下品な―少なくとも彼女はそう思っている―口調でからかっている。 「欲しい、と言えばいい…素直に、その口で…」 「そ、んな……!」 恥ずかしいことができるか、とは言えなかった。 元親は見抜いている。 何もかも知っていて、ァ千代を翻弄する。 「ねだってみよ…なあ、お嬢…」 耳朶を低い声がくすぐった。 元親の顔が更に近づく。 銀の前髪が触れた。 →あとがき |