七月七日は乞巧典。 この日、婦女子は盥に清水を張り、星明かりを映す水面の上で糸通しをする。 そうすると、裁縫が上達するのだといわれている。 「ああ、難しいなぁ!」 右手に赤い絹糸、左手に針を持ち、尚香はため息をつく。 そんな親友に、稲姫はくすりと笑った。 「癇を立てたってだめよ、尚香」 「だぁって……。稲は上手よね、袖とか裾だってすぐ直せるし」 「いつも信之様の御服を縫って差し上げるもの」 「まっ、おのろけごちそうさま!」 「だから、こうやって、星星にお願いするんじゃない?」 祭壇に飾られた五色の刺繍糸から、真新しい糸を引き抜いて尚香へ渡す。 「よおし、今度こそ…!」 弓腰姫の名に懸けて、裁縫の一つくらいこなしてみせる!…と、真剣そのものの表情で針穴を覗く。 (もっと縫い物の腕を上げて、玄徳様にすてきな衣裳を贈るんだから!) 静かに奮闘する姫君たち、その上にそよぐ竹林の上では、一つの影が器用に佇んでいる。 「にゃはん♪できた、っと!」 星明かりを集めた筆先が、つややかに輝く。 満足げにひらひらと梶の葉を揺らしながら、くのいちは人知れず、闇夜を跳ぶ。 七夕の星明かりを享けた水は、墨をも変えるのだという。美しい字が書けるようになると。 あきれるぐらい真っ直ぐな主人へ、便りを持ってひた走る。 離れた国で彼女の安否を気遣う人のため、精一杯の気持ちと、思いを込めた文字を携えて。 |