写本・第二

□夏草
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夏の日が傾き始める頃、稲姫は真田の陣へと戻ってきた。
もとより信幸は覚悟していた。
それでも妻を止めなかったのは、望みを捨てきれない、兄としての未練だった。

「止められませんでした…」
「稲…」
「私…幸村殿を止められなかった…」
信幸は、黙って妻を抱き寄せた。
冷たい胴丸にすがりつき、稲は泣いた。
「私の兄弟たちは、皆、往ってしまいました…!」







「行かないで」
「くのいち…」
「行かないで…」
「すまぬ…」
「行かないで、幸村さま…行かないでよう!」


「幸村さま、お願い…死なないで…生きてよ…生きて…生きてよ…!」


「あたし…ッ、あたし、幸村さまを守るから!絶対に守るから!だから、死なないで!あたしが死ぬまで任務を与えて!あたしは――」
「くのいち」
「あたしは…っ…」
「お前は、生き延びよ。生きて、おんなとして、幸せになれ」
「幸村さま……」
「お前を死なせたくない…」
「幸村…さま…」

「愛している」









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