写本・第二

□晩香玉
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彼には生来、残酷を愛するところがあるのだろう。それは彼自身の類まれな知性と理性に裏打ちされ、彼の内に恐るべき闇となって築かれている。時として、計算づくの淫蕩さで誘い、そっけなく突き放しては落胆を見て悦ぶ。そういう、他愛なくも冷たい遊戯に姿を変えたりする。
今夜の趣向は、では、どういった類の秘戯なのだろうか。
「変わったお召し物でいらっしゃる」
いつもの無表情に鼻白む様子もなく、曹丕はせせら笑った。
「いつもながら無粋な感想だな、お前らしい」
燭台の大きな炎に照らされて、紅く映る唇が淫靡だ。もっとも、それは夜の姿を見慣れている司馬懿だけの感想かもしれない。
「たまに目新しいことをせねば、飽きてしまう」
露骨に誘うように、青白い脚が夜着の裾から這い出てきた。それも、妖しい光沢を放つ瑠璃色の夜着だ。霊泉からゆっくりと浮かび上がる白蛇を思わせた。
白い妖しは、練絹の褥を這い、邪淫なる者に絡みつく時を待っている。
それを捕らえ、ぬめるように輝く紫紺のさらに奥を暴こうと、手を伸ばす。
その時、瑠璃色の衣が翻り、妖しい白は薄絹の奥へと逃げていってしまった。
「今日は新しい宮女を迎える夜だ。もう行ってやろう」
憮然とした眼差しを隠さない司馬懿に、残酷な遊び心に満ちた唇が細く笑いかけた。
「心配ならば、ついてくるか?」
「……いえ、結構」
その蔑むような端麗な眼が淫蕩な苦痛に歪むよう、弄んでやろうかと思った。
硬く男らしい青白い手を爪の先まで絡め取り、引き締まった白い太腿に紅い血が滲むよう縛り上げる。それも全ては己の指先一つで成し得るのだから、つややかな黒髪を乱して抗う唇を、その黒髪が青白い頬に映えるよう散らして唇と共に封じることも、それよりもっと下劣で魅惑的な性戯に用いることもできる。
ただ――。
「お前の下劣な欲望を、ここで一つずつ数えてやろう。そうすれば、お前の余計な興味も殺がれよう」
この残酷にして美しい主人は、それを滅多に許さない。
低く蠱惑的に囁きかける唇と、刺繍の重たい裾を割り開くような脚の動きとは裏腹に、欲情の灯った眼は冷たく司馬懿の動きを注視している。
諦めざるを得ない。
「何を仰せやら…」
つと身を引く動作に、曹丕は低く嗤った。
「それでいい。賢明だな、仲達」
皮肉で歪む微笑さえ美しい。
司馬懿が取り憑かれたのは、そういう人だった。




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