捕らわれたその日、彼は豊かな黒髪を髻から切り落とした。 かつての愛人が幾度も梳き愛でたから。 「その程度で、私を拒むおつもりか」 哀れみを込めて、頬にかかる絹糸のような髪を撫でる。 拒んでいながら、どこかで司馬師の執着を試しているのかもしれない。 本当に嫌ったら、愛しい曹叡はどうするつもりだろう。 絶望に染まった表情を思い描く。 それはたとえようもなく美しい。 寄る辺ない孤独に怯え、止まり木の安堵を知る彼は、今度こそ壊れてしまうに違いない。 「耐えられないのは、あなたのほうでしょう」 笑いかけると、切れ長の目が静かに潤んだ。 一言の抗弁もなく、淡い朱唇を引き結ぶ。 そうして必死に堪えている彼は、やはり美しい。 「本当に、嫌って差し上げようか…?」 すると、彼は初めて唇をほどいた。 「…お前に、できるものか…」 恋着を知る者の強みだ。 「できますよ」 司馬師は笑う。 「その時、あなたがどんなお顔をなさるかと…そう思ったなら…」 見開いた鳳眼から、涙が一筋、流れる。 それも、また限りなく美しかった。 |