写本・第二

□幽愁
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捕らわれたその日、彼は豊かな黒髪を髻から切り落とした。
かつての愛人が幾度も梳き愛でたから。

「その程度で、私を拒むおつもりか」
哀れみを込めて、頬にかかる絹糸のような髪を撫でる。

拒んでいながら、どこかで司馬師の執着を試しているのかもしれない。

本当に嫌ったら、愛しい曹叡はどうするつもりだろう。
絶望に染まった表情を思い描く。
それはたとえようもなく美しい。
寄る辺ない孤独に怯え、止まり木の安堵を知る彼は、今度こそ壊れてしまうに違いない。

「耐えられないのは、あなたのほうでしょう」
笑いかけると、切れ長の目が静かに潤んだ。
一言の抗弁もなく、淡い朱唇を引き結ぶ。
そうして必死に堪えている彼は、やはり美しい。
「本当に、嫌って差し上げようか…?」
すると、彼は初めて唇をほどいた。
「…お前に、できるものか…」
恋着を知る者の強みだ。
「できますよ」
司馬師は笑う。

「その時、あなたがどんなお顔をなさるかと…そう思ったなら…」

見開いた鳳眼から、涙が一筋、流れる。
それも、また限りなく美しかった。






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