写本・大戦

□Sexy Cat
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 いい雰囲気だった。
 肩にすり寄っても振り払われないのは、許してくれていると同じ。
 ゆっくり、体をぶつけないよう、優しく押し倒して、あわいを緩めて――その間ずっと口づけしていても、静かに応えてくれて。
「ね、いい――」
 でしょ、と、もちろんの期待を込めたのは当たり前なのに。

「待て」

 いきなり起き上がって身繕いなどと、あまりにひどい。
「え………って、え!?いや、ちょっと!」
「何じゃ」
「あそこまで出来上がっててだよ!?なんでお預けなんですか!」
 情けなさでいっぱいのまま詰め寄ると、彼は気まずそうに目をそらす。
「……今は、気分ではない」
「はあ!?」
 あんなに悩ましい表情で愛撫に応じてくれていたのは、どこの誰だと叫びたかった。
 が、そんな気力すら萎んでしまった。
「だったら期待させないでくださいよ…!もう!」
 珍しく本気で気分を損ねたらしい義弟に、いささか後ろめたいのか、公孫瓚もしぶしぶ口を開いた。
「さっき…誰か、近くを通った」
 劉備は不機嫌きわまりないためいきをついた。
「だから?」
「解らんのか」
「さあ」
 腹いせに、しらじらしくとぼけてみせた。
 誰かに見られたり、聞かれたり…それを恐れるのは、含羞だの恥じらいだのと可愛いらしい類ではないにせよ、公孫瓚らしい。
「解らんなら、いい」
 さっさと立ち上がる公孫瓚の後ろ、壁一枚へだてた廊下を、談笑と足音が通りすぎていった。
 何となく、ふたりで息を詰めて、招かれざる人々が去っていくのを待つ。妙にやましい気分になるのが不思議だった。

「今日はダメなんですか」
「別に、やらなくても大したことではなかろう」
「あります。…伯珪兄ってば、全然解ってない」
「ひとりでやればよかろうが」
「あなたが見ててくれるなら、いくらでも」
「その発想こそ意味が解らんわ」
 公孫瓚は、ひとしきりため息をついた。
「俺にとっては、あってもなくても同じことじゃ」
 すると、劉備はじっと、文字通り目の前までにじりよってきて、こう言うのだ。
「私は、“ほしい”んです」
 そんな真剣に言うことでは、全然ないのだが。
 まったくもって、うっとうしい。
 だが、何となく悪い気はしない。

「ばか」
「一途って言って下さい」









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