いい雰囲気だった。 肩にすり寄っても振り払われないのは、許してくれていると同じ。 ゆっくり、体をぶつけないよう、優しく押し倒して、あわいを緩めて――その間ずっと口づけしていても、静かに応えてくれて。 「ね、いい――」 でしょ、と、もちろんの期待を込めたのは当たり前なのに。 「待て」 いきなり起き上がって身繕いなどと、あまりにひどい。 「え………って、え!?いや、ちょっと!」 「何じゃ」 「あそこまで出来上がっててだよ!?なんでお預けなんですか!」 情けなさでいっぱいのまま詰め寄ると、彼は気まずそうに目をそらす。 「……今は、気分ではない」 「はあ!?」 あんなに悩ましい表情で愛撫に応じてくれていたのは、どこの誰だと叫びたかった。 が、そんな気力すら萎んでしまった。 「だったら期待させないでくださいよ…!もう!」 珍しく本気で気分を損ねたらしい義弟に、いささか後ろめたいのか、公孫瓚もしぶしぶ口を開いた。 「さっき…誰か、近くを通った」 劉備は不機嫌きわまりないためいきをついた。 「だから?」 「解らんのか」 「さあ」 腹いせに、しらじらしくとぼけてみせた。 誰かに見られたり、聞かれたり…それを恐れるのは、含羞だの恥じらいだのと可愛いらしい類ではないにせよ、公孫瓚らしい。 「解らんなら、いい」 さっさと立ち上がる公孫瓚の後ろ、壁一枚へだてた廊下を、談笑と足音が通りすぎていった。 何となく、ふたりで息を詰めて、招かれざる人々が去っていくのを待つ。妙にやましい気分になるのが不思議だった。 「今日はダメなんですか」 「別に、やらなくても大したことではなかろう」 「あります。…伯珪兄ってば、全然解ってない」 「ひとりでやればよかろうが」 「あなたが見ててくれるなら、いくらでも」 「その発想こそ意味が解らんわ」 公孫瓚は、ひとしきりため息をついた。 「俺にとっては、あってもなくても同じことじゃ」 すると、劉備はじっと、文字通り目の前までにじりよってきて、こう言うのだ。 「私は、“ほしい”んです」 そんな真剣に言うことでは、全然ないのだが。 まったくもって、うっとうしい。 だが、何となく悪い気はしない。 「ばか」 「一途って言って下さい」 |