――それは、何じゃ。 僅かな興味で尋ねただけのことを、あれほど高価な形で贈り返されるとは思っていなかった。 「何だ、それは」 いつもより少し不機嫌そうな声に、訝しさといくらかの面倒さを覚えて、苛立たしげな視線を追ってみた。 「ああ、これか」 手をやると、ひやりと心地よい硬質さを感じる。抜き取れば淡い輝きを放つ銀髪が美しく下りた。 「比余じゃ」 「…比余?」 耳慣れぬ響きは当然だ。 「單于の贈り物だからの」 中原を去ると、わざわざ別れを告げに来た。精悍な匈奴の王が、手ずからその髪に挿していったものだ。 「あの地では、君たる者の象徴らしい」 上の細歯は象牙、その他は全て金。黄金の背に虎狩の様子が息づき、一枚の壁画のようなその周囲に珍珠を填める。返しには花蔦が刻まれ、青石や玉髄、玻璃、琥珀の薄片が、五彩の花園を造っていた。 「なぜ、俺に贈ってきたのだろうな」 君主の櫛など、もはや挿すに値せぬ身だというのに。 |