油断ならぬ駆け引きの遊びは、遊戯だからこそ好いのだ。 それなのに、曹丕は平然と、 「お前のほうがよほど巧い」 などと笑って、淫行の事実を隠そうともしない。 「……感心できるやり方ではございませんぞ」 そう言って、叱責とも軽侮ともつかぬ言葉を投げるとき、いつも腹の底が固く冷える心地だった。 「このことが知れれば、ご自身の命そのものが危うい。それをお解りでない」 「解っている。それに、言葉が抜けてるぞ」 長椅子の上で、ころりと猫のように寝返りを打ちながら、曹丕はいささか淫蕩な笑みを見せた。 「俺の体ひとつで、連中は聞きもしないことをよくしゃべる。用間の手間が省ける、それで帳消しだろう?」 笑いながら、黒い指先が青白い胸元をするりと撫でた。 堅物な青年官吏たちがあっさりぼろを出すのは、気位の高い貴公子が淫蕩な本性を見せるという、倒錯した肉欲に絡め捕られた末路だとは察している。 だからこそ許しがたいのだ。 「我が君――」 「そう怒るな。役に立ったろう」 こういう剣呑なやりとりは、曹丕は慣れている。 普段取り澄ましている司馬懿が感情的にふるまうのを、面白がっている風ですらある。 長椅子の上で、だらしなく――というより、しどけなく寝そべって、胡酒の入った杯をもてあそんでいる、計算した妖艶さがいい証拠だ。 「なさりようは到底、賢いとは言えませんな」 「なぜ?」 杯を揺らしながら、わざとらしくぬけぬけと言い放つ、その様子に腹が立った。 いきなり近寄って、曹丕の手首を思い切り握り締める。 「…ッ、痛い、ばか!」 滑り落ちた杯が甲高い音を立てて床へ転がった。 血を撒いたような床の様子には見向きもせず、そのまま椅子の上へ押し倒した。 「よもや、男の体がなければ堪えられぬなどと、恥知らずなことは仰いますまいな」 「ばかを言うな…まさか妬いているのか?」 「でなければ、四六時中、はしたない格好を好むあなたに腹を立てているのですよ。匹夫を銜え込まなければ気の済まない、ふしだらな御方が何をおっしゃる」 「おい、仲達…!」 さすがにむっとした様子だったが、何を企んだものか。押さえつけられた手が、押さえつける手を絡めとるように、握った。 「…だったら、どうする?」 今しがた嘲弄するような眼差しであったものが、急に妖艶なうるみを帯び始める。 「俺に罰でも与えるか…?」 ツンとそらした細い顎の向こうから、挑発と甘い媚態を絡ませて、赤い舌が覗いた。 目を転じれば、喉を這う紅い刺青が、呼吸にあわせ蠢いている。 ただの一瞬で、多分に嗜虐の隠った情欲が胸の内に燃え立つ。 「お望みどおり、罰を与えてやろう…」 気が狂うほどの快楽を与えてやる。 許しを乞うて泣き叫ぶぐらい責め抜き、この淫らで美しい肉体に躾てやるのだ。 「あなたを満足させられるのは誰なのか…教えて差し上げる」 曹丕が深々と大息する。 目元を淡く染め、熱い呼吸に上下する胸が衣装を息づかせる。 これから与えられる、文字通り、苦痛となるほどの快楽という罰を期待している。 薄い唇が、黒革の手袋を食み、引き抜いた。 挑発と恍惚がないまぜになった視線を受け止めて、司馬懿はようやく、唇をゆがめた。 こうやって、自分をつなぎとめようとする曹丕が、ひどくいじらしく思える。 そんなことをしなくとも、自分はもう、心の底から虜なのだということを、どうやって教えたものだろうか。 すっかり乱れた髪が、首筋の紅い文様に流れていく様を見ながら、司馬懿はそんなことを考えていた。 |