「伯珪」 風にたなびく銀髪が振り返った。彼がここまで人の気配に気付かないのは珍しい。 「何を見ていた?」 隣に立ち、康荘を見下ろす。 望楼に吹き込む風は、強い。 風の音に紛れるように、答えがあった。 「…空だ」 「そうか」 本当はどんな景色も目に入ってはいなかっただろう。思い詰めたような、切ない眼を虚空へ向けている。 時折、公孫瓚はそんな眼をする。哀しげで、寄る辺ない寂寥を湛えた眼差しを見るとき、孫堅はもどかしい悲しみを覚える。 「船に乗ってみないか」 「船…?」 「ああ。孫呉の水軍の船の中でも、一番大きな戦船に」 「乗って、どこへ行くのじゃ」 「どこへでも、お前が望む場所へ行くぞ」 表情はにこやかだが、眼差しどこまでも真摯だった。 そのとき初めて、公孫瓚は微笑んだ。 「それは楽しみだの」 ------------------ 矢薙様のブログに萌みなぎった結果降臨した光景を書き留めてみた。 私の書く受殿はあんまり甘えてくれない…(遠い目) |