無双BASARA

□崇高
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わけのわからぬまま、これまたどうしてこんなふうに建っているのかわからない、相州は忍城の城代に迎えられて早くも半年。
十重二十重の包囲、とまではいかないが、城外攻めやすき地という地には血のように紅に桐を染めた旗が翻り、豊臣方が陣している。

「我らが覇王、豊臣秀吉様は、その大いなる覇業をご自身の手で成し遂げられ、遠呂智をも打ち砕かれる。天下の諸国諸城、閣下の覇業を奉戴し、宜しく開城するべし」

軍を差し向けたのは、彼がよく知る、抜け目ないがどこか愛すべき、あの人たらしではない。
そうなら元就はとうに城を開き、友軍として出迎えている。

「聞こえているのか」

眼下に佇む青年は、どう考えても、危険すぎる。
「石田三成君…だったよね」
「返答は」
「なぜ、遠呂智を倒すのに、他の国や城を攻撃するのかな…」
「徒に争い、妖物を資することがあってはならない。だが、遠呂智を倒すならば、その力を打ち砕く更に強大な力を要する。閣下がそうだ。そして、閣下の御指揮のもと、この世界は、いかなる敵にも屈さぬ強力な国家となるのだ」
とんでもない怪物が現れてしまった。
「今、この世界は、遠呂智のため荒廃に荒廃を重ねている。それは、ご存知だと思う」
「無論」
「だったら、それを防いだり阻止しようとしている勢力を攻撃するのは、民に二重三重の苦しみを与えるものだとは思わないかい?」
「我々には時がないのだ。戦乱に荒れ果てた今だからこそ、より多くの戦を起こしたとしても、損害はより少なくなる。まず勢力内部を統一し、以て外敵に当たる。何が不服だ」
「そう……そうだね…確かに正論だ。……だけど、その勢力、いや、国って、誰が支えてる?その人たちを軽視した“国家”って、何なのかな…?」
「そんなことは考えずともいい。何も考えなくともいいのだ、すべてを秀吉様に委ねること…それが不屈の強き国を創る」

元就は初めて、この石田三成に腹を立てた。

「答えられないのかい。……だったら、その思想は君のものじゃない。君は他人の思想に縛られ、それをいつの間にか自分の考えにすり替えただけだ」
まさに、この青年を傀儡の君主とするために。
彼は“凶王”と呼ばれているという。
あちらの竹中半兵衛は、随分と残酷な、そして身勝手きわまりないことをする。
元就の知る軍師たちは、主君を諫め、己の力及ぶ限り百姓を救おうとするだろうに。
「私の知ってる石田君はね、口は悪いし頑固だし融通の利かない傲岸不遜な男だがね。国を支えるのは一人の王じゃない、民だと知っている名君だよ」
なにも知らない、知ることも学ぶことも放棄した、純粋という名の無知が、鋭くそこに佇んでいる。
物を知らなければ、良き逃げ道や賢い回避も知らない。
だから、痩せた思考はますます細って、自分が依存するものだけを残し、薄く殺げていく。
その様を、人によっては「純粋な思いですべてを背負い、やせ細っていく」と、感動するのかもしれないが。

「私は、君にだけは、そちらの豊臣軍にだけは“降伏してやる”ことはしない」

にっこりと微笑む眼差しは、しかし毅い光輝に満ちている。
「降伏してやる、だと…?」
石田の顔が凶暴な影を帯びる。
主君の“温情”を拒絶する者は決して許さない――握り締めた刀が、そう叫んでいる。

眼下に見下ろしながら、元就はふと、今はどこの戦場を疾駆しているのか、一陣の疾風のごとき青年を思い出した。

「石田君、私はここから出てやらないよ」

彼の笑顔は無理でも、鋭い言い回しくらいは真似してみようか。

「私は、餓鬼は嫌いなんだよ」



















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ぽややん大殿ですが、意外と辛辣な発言もあって、それでこそ毛利元就だなあと思うわけです。









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