洋書

□Indirect way of secret heart
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白い石畳の城下を縫って、こでまりの低い生垣とローズマリーの植わる街路を行けば。
白とピンクと碧の化粧大理石の、めざす家が見えてくる。

灰色の御影石の礎石を上がり、花蔦も重厚な鉄柵を開けば、白壁に青灰色の石柱とコーニスが映える前庭。
青と白の回廊の奥が、ようやく玄関だ。



黒光りする樫の大扉の前に立ち、呼吸を整えながら、ノックを握った。
真鍮のひやりと冷たい感触が、気温のためではない汗ばんだ手のひらを戒める。
重いノックの音と、心臓の鼓動が重なった。

「あら、ネロ!」

喜ばしい来訪者に、ぱっと笑顔を咲かせる。
掃除をしていたのか、大きなエプロンに腕まくりという出で立ちだった。
そんな姿も可憐な“幼馴染”を前に、訪問の理由も考えていなかったことに、今更ながら気付いた。
「あ、キリエ…」
我ながら間抜けた第一声に、自分へデビルブリンガーを叩き付けたい。
気を取り直して、もう一度。
「いや、ちょっと寄ってみたんだ」
「ありがとう。ちょうど、台所のお掃除がおわったところなの、お茶にしましょう」

目の前の少女と同じく、幸運の女神はネロに微笑んでくれたようだ。




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