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□孤影
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羊祜には解らない。
義兄が欲するのは、権力よりも第一に魏の滅亡だという。
「何故、兄上はそうまでして、魏を憎むのですか…」
問えば、漆黒の外衣がゆっくりと振り向く。
「元仲様のおられぬ魏など、もはや存在に値しない」
司馬師は、暗い微笑で吐き捨てた。
羊祜は、それでも倩しい円らな瞳に涙を溜めて、義兄を見た。
「ですが…それでは、烈祖のご遺詔はどうなるのです。あの方が、どんなお気持ちで、お父上に訴えられたのか…兄上ならばお解かりでしょう…?」
息を喘がせて、必死に紡がれる義弟の言葉を、しかし、司馬師は非情な美しさを持った笑みで切り捨てる。

「病みて乱を作す」

羊祜は、びくっと体を震わせた。
その一言で、わかってしまった。

―――ああ、もうだめだ…

もう、義兄は決めてしまったのだ。
彼は二度と振り返らず、二度と後悔しない。






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