写本

□虞淵
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 それから。
 もののひと月も経たぬうちに、劉備は会見を取り付けてきた。
 いったいどうしたら、あの頑なな将軍が意を翻したのか。
 劉備に問うても、
「ただ、あなたと和する益を説いたまでです。私が相手ということで、将軍もいくらか、態度をやわらげてくれたのですよ」
 と微笑むばかりだ。
 果たして、本当にそうだろうか。
 劉備は侠徒たちと深いつながりがあるという。
 そして、侠徒の概念を軍隊に取り入れたのが、公孫瓚だ。義兄弟といい、義従という。そこには、劉虞の与り知らぬ社会が複雑に網を張り、入り組んでいるのだろう。

――私は、見てはいけない世界の力を、借りてしまったのだろうか。

 そう思わずにはいられなかったが、結果は結果だ。
 劉備は約束を果たし、公孫瓚は会合の席に着く。
 ならば、己はそこへ赴くまでだ。



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