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□puppy love
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その日も、午後には司馬師が伺候してきた。
恭しく慇懃な、愛情深い態度は、何もかも常と変わらない。
ただ、今日は挨拶の最後だけが違っていた。
「弟が、何かご無礼を申し上げませんでしたか」
聡いのは父親に似たのだと、曹叡は思う。が、約束は約束で、黙って首を振っておいた。
「そう…、そうでしたか…」
心から弟を気遣っていたのだろう、その安堵の表情を見たとき、曹叡の胸の中で、ぽつりと嫉妬が灯った。
髪を梳く優しい振動を背に感じながら、曹叡は静かに唇を噛んだ。
きっと、あの小生意気でかわいらしい子が、もっと幼い時、彼は同じように身支度を整えてやっていたのだろう。
そうして、こんな風に優しく笑いながら、優しく話しかけて、優しく触れていたのだろうか。
「…少し、子上が羨ましいな」
「なぜです?」
「私よりずっと長く、そなたと過ごしてきたのだから」
五つも年下の子供に嫉妬しているようで、稚く思われただろうか。
表面はそ知らぬ顔で、内心は息が詰まりそうな心地で、曹叡は答えを待った。
司馬師は、微笑して答えた。
「兄ですから、弟は可愛らしいものです。ただ――元仲様を愛することと、また別でございますよ」
わたくしは、と後ろから穏やかに、抱きしめられた。
「元仲様が、昭をそれほどお気に召したかと、そればかり気になっておりました」
「私が…?」
今度は、曹叡が笑い出してしまった。
「子上は、私にそなたを取られたと思っているのではないかな」
「…左様でしょうか」
「なぜ、そう思う?」
「帰ってきて、あれが妙に得意げに言っておりました」

――殿下が、“また遊びに来い”と言ってくださいました。

その様子が容易に目に浮かんで、曹叡は思わず、微笑を禁じえなかった。
「お笑いになりますか…」
司馬師の憮然とした表情も珍しい。
今日は何とも、不思議ですばらしい日だ。
「ふふ…すまない、とても可愛らしかったものだから」
「それは、どちらのことですか…」
「そうだな――」
背を覆う、温かな翼のような腕に頬を寄せて、曹叡はもう一度、笑った。
「そなたは、どちらのことだと思う?」
「元仲様」
困ったような、戸惑ったような、そんな表情が愛しい。

「私のことだと、思ってよろしいか?」

もちろん

そうに決まっている。








end

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