書架

□玉牀
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 きらびやかな衣裳や宝石を眺めるたび、あの隠微なる遊戯が思い出され、胸がざわめいた。
 幼い曹叡の手に愛おしそうに口づけ、白く長い指で紅を差し、髪の一筋まで恭しく梳っていた。
 美しい微笑みや、しのびやかな笑声――そこに混じって、少年の細い首筋や肩口や額を切なげに貪っていた、生々しい感触が蘇る。

 幼い日の甘美な記憶が、実はもっと苦く甘い戯れだったのだと気づく。
 それは毒々しいほど鮮やかなようで、朝靄のように穏やかで白々としてもいる。
 幾重にも襲ねられた、幽艶にして歪んだ秘儀。
 彼が、叶わぬ面影を自分の上に映じていたのは解る。
 だからといって、彼が曹叡を欲しているわけではないのに。
 それを、今、求めようとしているのは、なぜだろう。
「そんなの、知っている……」
 父の似姿であっても構わない。
 母の依代であっても構わない。
 誰かに求めてほしいからだ。
「ねえ、叔父上……子建様……」
 あの時より面やつれした叔父は、その故に尚いっそう、美しい。
「秘密を守って下さいますか」
 深淵のような黒い瞳に満ちる、言い知れぬ恍惚の潤みを、曹植は心から美しいと思った。
「守りますよ、元仲さん」
 やはり、微笑んだその人に魅了されていたのだ――曹叡は、そう悟った。






「きれいな眼だ…」
 うっとりと目を細め、彼は呟いた。
「兄さんの眼…」
 物狂おしそうに頬を撫でられて、曹叡は少し、切ない。
「元仲さんが、うらやましい」
「なぜ、ですか…?」
「兄さんと嫂様の、両方を持っているから」
 耳元で囁かれる声は、まるで媚態を秘めた毒薬のようだ。
 曹叡の心を浸食していく。
 純粋にすぎて歪んでしまった欲望に、応えてやりたいと思わせる。
「叔父上」
「なに…?」
 薄い、梔子の花びらのような唇が、頬に触れる。その形は笑っていた。
「私に、下さいますか」
 何を、とは言わない。
 彼も、聞かない。
「いいよ」
 彼の白く長い指が、自分の玻璃を嵌めた帯鉤を外すのが見えた。
「元仲さんが、私に下さるなら…ね…」
 実のところ、曹植の何が欲しいのか、曹叡自身よく解らない。
 唯だ、くすりと微笑む唇がひどく魅力的だった。
 唇の形を舌先でなぞるような、十五にしては頽廃した口づけを選んだのは、そういうことなのだろうか。
 帯が外れて、寛いだ裾から白い脚が零れた。
 小さな指を優しく噛みながら、柔らかな口づけが膝を這い上っていく。
「ん…っ…」
 ぬるりと生温かい感触に、知らず体が震えた。
 羞恥というより快感、それを期待する歓び。
 心の底がぞくりと蠢く。
 自分はどうなってしまうのだろう、と。

(……違う)

 どうにかなってしまいたいのだ。



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