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□天瑩
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欠点の多い人だとは思う。
恩讐いずれにも執念深く、思っていた以上に短気だ。有能な人物の例に漏れず、自分に異議を挟む者は許さないし、諫言など虎の尾を踏むに等しい。

では、この仕え難い支配者に不満を抱いたとして、他の者が訳知り顔に
「まったく、器の小さい君主に仕えることは災難ですな」
あるいは
「太祖の世が懐かしいですな」
などと言ったとしよう。
自分はその者に距離を置き、いずれは関わりを避けるようになるだろう。
そして、陳羣の脳裏に浮かぶ能吏たちも、同じことをするに違いない。
なぜなら、そんな輩は、自らの目ではものを見ていないからだ。



太祖は、麻の如く乱れた天下を収めるに、法の力で以てした。
それは乱世の気風を一気に抑圧したが、必ずしも人心を治めたわけではない。
法は公正ではあったが、急峻にすぎた。
煩雑な厳しい刑罰に抑えられた漢の内情が、呉や蜀の野心を煽ることになった。
ずる賢い江東の碧眼児などは、公然と
「魏は曹操の峻厳な法に疲弊している。あれが死んだら、民は一気に魏を見限るだろう」
と言っていた。

が、現実には、民は魏のもとに止まった。

漢を逐い、玉座に即いた皇帝は、まず法を改めた。
刑罰を緩め、訴訟を制限し、賞与を優先した。
結果として、魏は中原の大国であり続けた。






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