短編

□守られるくらいなら死んだほうがマシだ
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血の臭いが鼻をつく
ふわふわと、まるで平衡感覚をなくしたかのような錯覚に襲われた
何処か現実味の欠けた中に、ダンテはいた


(な…んだ?)


自分は、死んだのだろうか
そう思った瞬間、腹の激痛がダンテを襲った


「ぐっ…ぁ…!!」


不意の痛みに苦悶の声がこぼれた
ジクジクと熱っぽい鈍痛が続く

(……?)


痛みを堪えていると急にふわふわとした浮遊感が消えた
何かにもたれ掛かるようにダンテは座らされた


(何だ?)


訝しく思うと、撫でるように頬に硬いものが触れた
あまり熱を感じさせないそれ
ダンテには確かに覚えがあった


「…坊……や?」

「!!ダンテッ!!」


酷く重い瞼を開ければ、ぼんやりとネロの姿が見えた


「俺、は……ぐッ!!」


状況を理解しようと身じろいだ時、腹に激しい激痛が走った


「ダンテ!!」


痛む箇所に手を持っていくと、ヌルッとした感触が手についた
ゆっくりと自分の掌を見ると血がベットリとついていた


―――あぁ、そうだ


自分はネロを庇って腹を悪魔に切り裂かれたのだ


―――そうだッ!!


「ネロッ!」


ダンテは叫び身を乗り出した
しかし、無理に動いた為に先程とは比べ物にならないくらいの激痛がダンテを襲った


「がッ…はッ…!!?」

「ッダンテ!!」


痛みに堪えきれず、ダンテはネロに凭れるように崩れ落ちた


「バカヤロウ!傷の度合いを考えろよ!!」

「ッ…は、返す言葉もないな…」


ダンテは自嘲したように息を吐き、顔を上げた


「…怪我は、無いか?」


自分でもバカな質問と思った
下手したら内蔵が出るかもしれないくらいの傷を負っているくせに、どの口で他人の心配をするのか
ネロに激怒されるだろうが、それでも構わない
ネロが、傷つくのは嫌だった


「あんた…まず自分の心配をしろよ!!勝手に俺を庇って、死にそうなくらいの重傷を負って!!それで怪我は無いか?ふざけんなッ!!!」


返す言葉もなかった
自分がネロの立場だったら同じことを言ってただろうから
ダンテは忍びなく思い、俯いた


「……った…」


小さな声で呟いたネロの身体は震えていた
顔を上げると、表情はわからなかったがネロが泣いているように見えた


「坊や?」

「あんたが、死んじまうかと思った…」


良かった…


ネロは何回もそう呟いた


「坊や…泣くなよ」

「泣いてない。悪魔は泣かないもんだろ?」


ネロは何かを振り払うようにかぶりを振って言った


「悪かった…」

「あぁ、許さない。あんたに守られるくらいなら死んだ方がマシだ」


ネロはそう言って笑うと触れるだけの口付けをした


「悪魔なんかに殺されるなよ。あんたは俺が殺すんだから」

「…お手柔らかに頼みたいな」


ダンテはそう言ってネロの肩を借りて立ち上がった
動いたことで、傷が疼く


「……ッ…」

「痛むか」

「NO…と言ったら嘘になるな。でも大丈夫だ。にしても…治りが遅い…」

「あぁ、あの悪魔が毒を持っていたみたいだ。もう、大分薄れたみたいだけどな」


気遣うようにネロが顔を覗き込んできた
ダンテはふっ…と笑うと言った


「…坊やには随分と心配をかけたな、すまない」

「本当だよ…って言ってやりたいところだけど、俺が油断してたのも原因だ。もう、謝ったりすんなよ」


そう言って笑ったネロの顔はとても頼りがいのあるものだった


「…いつの間にか、もう坊やじゃなくなってたんだな」

「え?」

「いや、何でもない」

「なに嬉しそうな顔してるんだよ、気色悪いな」


心外だ、といってダンテは笑った


「帰ろう、坊や…いや、ネロ」

「え?」


ダンテの言葉にネロは思わず聞き返した


「今、何て…」

「帰ろうって言ったんだ。…ネロ」


聞き間違いなんかじゃない

ネロは確信した


「〜〜〜ッ!!ダンテ!!」


ネロは嬉しさのあまりダンテに抱きついていた
ダンテが自分を坊やでなく名前で呼んでくれたことがとてつもなく嬉しかった
けれど、ダンテにとってはたまったものじゃない


「ッ…はな、せ!!傷にひびく!!」

「あっ!!」


ネロははっとして、苦痛に眉をひそめるダンテから慌てて離れた


「悪い、大丈夫か!?」

「ッ…早速殺されるかと思った…このバカが」


傷をおさえながら怨めしそうにダンテは言った
痛みに呻くダンテを気にかけつつ、ネロは微笑んだ


「……ありがとな、ダンテ」


ネロは囁きながらダンテの額に軽いキスをした
すると俯いてはいるが、ダンテの顔がみるみるうちに赤く染まっていくのがわかった
素直に、可愛いと思った
ネロは衝動のままに、ダンテの唇を貪った
けれど負担をかけないよう、甘く優しく
20秒ほど経ってから口を離す
熱い吐息が、ダンテの口から洩れた


「お前…ッ」

「帰ったらとびっきり善いのをプレゼントしてやるよ」

「…お断りだ」


せめて怪我が治ってからな


ネロの誘いに満更でもなさげにダンテは言った



〜fin〜
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