短編

□治らないとわかっていても願わずにはいられなかった
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※暗いです
ダンテが壊れてます(精神的意味で)
平気な方はどうぞ↓













ダンテが、壊れた
アイツの瞳にはもう濁った光しか映らない
はじめて会ったときの、あの飄々とした性格はどこへ行ってしまったのか
ダンテは現で生きることを拒否してしまった
儚い夢ばかり見ていて、今のアイツは寝ても覚めてもさして変わらない


「水、飲むか?」

「………」


返事は返ってこない
ダンテの夢の中に俺はいないから
ダンテは無言のまま俺から冷たい水の入ったグラスを受け取った
そしてゆっくりとダンテは水を嚥下していった
食事や睡眠とか、生命の維持に必要な最低限のことしか今のダンテにはできない


「………」

「あっ、」


ガシャン


空になったグラスがダンテの手の中から抜け落ちて割れた
それなりに派手な音をたててグラスが割れても、当のダンテはなんの反応も示さない


「………」

「気を付けろよ」


俺は一言そう言って、しゃがんで破片を拾った
粉々の破片がまるでダンテの心みたいで悲しかった


「いっ…!!」


そんなことを考えていたらチクリと破片が指に刺さった
ほんの少しの出血
それが、まるでダンテに拒否されたように思えた
無性に、哀しくなった


「っ………」


そしたら急に涙腺が緩んで、大量の涙がこぼれ落ちてきた
目頭が熱い
堪えようとしても、その涙が止まることはなかった


「あ…うぁ…ッ、あああぁぁああぁああぁぁぁぁああぁぁっ!!!!」


気がつけば俺はガキみたく大声を上げて泣いていた

そんな俺をダンテは濁った光を灯した瞳で、ただただじっと、見下ろしていた





治らないとわかっていても願わずにはいられなかった






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