短編

□壊れたオルゴール
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♪〜♪〜、♪♪〜、♪〜

「・・・なにやってんの?」

「あ?」

音に惹かれてドアを開けてみると帽子屋が砂糖がじゃりじゃりいうまで入れられた紅茶をちょうど口に運ぼうとしているところだった
ふと見ればその目の前には見たことのない細かな細工の施されたきれいな小箱が置いてあった

「なにそれ」

「ん?あぁ、オルゴールだ。見て分かんねぇのか?」

「別に。あんたがそんなもん持ってんなんて、にあわねぇー」

「悪いか」

「べぇっつにぃ〜?」

つかつかと俺はあいつの隣に向かいオルゴールを手に取った

♪♪〜、♪〜、♪♪〜♪〜

綺麗な曲だと思った
賛美歌のような、美しい曲
小箱に施された細工に
勝るとも劣らずに
美しく、優しく、儚げで
箱の中には小さな天使の人形があった
曲に合わせくるくると回る
金の髪に優しげな微笑をたたえたそれは・・・

「随分とお気に入りになったみたいだな」

「ん、まぁ・・・」

「・・・・・・」

「・・・んだよ」

軽く目を見開いて黙る帽子屋にいらつきながら問う

「いや・・・まぁ、そういうの似合わないなお前」

「はぁ?てめーに言われたくねーっつーか、天丼かましてんじゃねーよ!!・・・ん?」

「どうした?」

「これ、ネジねーじゃん」

「あぁ、不良品なんだよ。狂っちまってるから蓋開けると壊れるまでなりつづけるんだ」

ま、止めたきゃ蓋閉めりゃ止まるけどな

紅茶に口をつけながらあいつは言った

「ふーん・・・イカレたオルゴール、ってか?ってあんたどこ行くんだよ」

俺が言ったのと同時に帽子屋は立ち上がり、ドアノブをつかんでいた

「愛しの女王陛下のとこだ。すぐ戻る。それまで大人しく待ってろよ」

指差し確認のごとく、ズビシッと指をさして俺に言うと帽子屋はさっさと出て行った

「んだよあのやろう・・・」

悪態をつきながら俺は音楽に耳を傾ける
なんつーか、がらじゃないけども

ガチャ

突然先ほど閉められたばかりのドアが開かれた
帽子屋が、ひょいと顔を出す

「あーそうそう、おいアリス!」

「んだよ!行ったんじゃねぇのかよ!」

「それ、やる」

「へ?」

結構大事なもんなんだろうに、あいつはそう言った
だってこれ、年代物っぽいけどほこりの少しもついてないし、金具もさびてない
俺が貰っていいのかよ

「もともとアリスのために買ったもんだ、俺が持っててもしょうがねぇからな」

「え?」

「じゃーな。大人しくお留守番してろよ?」

パタン、と音をたててドアが閉まる
俺は少しの間ぽかんとしていた
そして、はっとして笑いがこぼれた

「俺、アリスじゃねーじゃん」

何勘違いしてんだと、俺は自分を笑った
だけど・・・

「今は俺がアリスだし、くれるっつったんだからな、貰ってやるか」

そんな風に理由をつけながら俺はじっとオルゴールを眺めた
細かな細工
小さな鏡と小物を入れられるようにくぼみがある
その奥には小さな天使

「・・・・・・」

まるで時が止まったように思えた
結局俺はそのまま帽子屋が戻ってくるまでずっと
オルゴールを聴いていた

fin

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