短編

□堕ちるしかない
1ページ/1ページ

「う・・・」

目を開けると、見慣れない風景が目に入った
そこは一面真っ白な壁
窓のないその部屋ではここがどこなのかなんて、分からない

「あぁ、目覚めたか。」

聞き心地の良い低い声が響く
徐々に意識がはっきりしてくる

(俺は・・・寝てたのか・・・)

眠りから覚めたとしかいえない感覚だった
しっかり前を向いて、前方にいる男を捕らえる

「・・・・・・」

「おはよう、ハセヲ。気分はどうだ?」

「よく見えたんなら、あんたはバカだ」

身じろぎをしながらそう言った
自分の体は今、また真っ白な椅子にこれでもかというほどきつく縛り付けられている
何が目的かなんて明白だ
動けないようにするためだ
逃げ出さないようにするためだ
そんな姿で抵抗しても、全て無駄だとは重々分かっている
それでも睨んだ
そんなもの、これっぽっちも怖くもないことなど重々承知している
それでも、何もしないのは自分のプライドが許さなかった

「全く、元気がいいな、お前は」

オーヴァンは優しく微笑む
その微笑みは暖かく、彼の内に潜むものなど、影も見せなかった
そのまま、優しい微笑みのままオーヴァンは一歩一歩近づいてきた

「ハセヲ、愛しているよ・・・」

薄っぺらい愛の言葉を囁いて

「・・・・・・」

「愛している、誰よりも・・・」

愛しげにオーヴァンは自分を見下ろした
手が、顔に触れる
愛しげに手が顔を滑り落ちる
手が、首へと移動した

「・・・ぁぐっ!」

指が、首に食い込む
ギリギリと締め上げていく、大きな手
締め上げられて行く、白く細い首

「ぁ・・・ぐぅっ・・・」

「愛している、お前だけを・・・」

オーヴァンの表情は変わらない
あの微笑みのままだ

「ォ・・・ヴァン・・・ぐぁっ・・・」

空気の通りの悪い中で、必死に声を絞り出す
けど、その声はもう届かない

「愛してるんだ」

あんたは何を言っている?
あんたは何を考えている?
あんたは何を見ている?
あんたは何を恐れている?

彼は狂った
狂ってしまった
原因は自分か

「愛している・・・ハセヲ・・・」

そして自分もまた狂ってしまった
原因は・・・

-----もう俺達は

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ