小説3

□オレの恋人が男前で困る
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こいつは自分なんかよりよっぽどできた人間なんだとつくづく思う。そしてその口もやっぱり自分なんかよりずっと達者で、一度だって勝てた試しがない。
肩を並べて歩くこいつは、今だって平然とバニラシェイクを啜っている。
先ほどまでマジバで課題を少し説明してもらったが、わからないの一点張りのオレを上手く丸め込んでしまった。
挙げ句、「明日の小テストで高得点を取れたらご褒美をあげますから」と微笑まれてしまった。そんなこと言われたら気合い入れるしかないだろうが。

「ごほーびってなんだよ」
「それは後でのお楽しみ、ですよ」
「いいじゃん教えてくれたって」
「ダメです」

そうかよ、と言って空色の髪をぐしゃぐしゃとかき乱すとやめてくださいと言いつつも、黒子は嫌な顔はもうしない。最初は手を振り払われたりもしたが、次第に諦めたのか慣れたのか。

「じゃあ、明日のテスト頑張ってくださいね」
「お前もあんだろーが」
「ボクは平気ですよ」
「へーへー」

ではまた、と言った黒子が背中を向ける。

「…くろこー」
「はい?」
「んー」

なんとなく、その背中を腕に閉じ込めてみた。
オレよりも一回り小さい背中はあたたかくて心地よい。

「なんですか、今頃甘えたさんですか」
「うるせーよ…」

ごほーび前借りさせてくれよ、と言ってみる。
すると黒子がこちらに向き直って、じっとこちらを見つめた。

「……」
「……なんだよ」
「おあずけ、です」
「う」

口元に指を押し当てられて、言葉を発するのを制止させられた。
なにやらその動作が思ったよりもサマになっていて少しだけ動揺する。

「明日頑張ったら、ですよ」
「……わかったよ」

上目遣いでこちらを見上げてくる目はどこか楽しげで、いつもと少し違う雰囲気に息がつまる。
するりとオレの腕の中から抜け出す前に、ふっとオレの頬に唇をかすめて黒子が笑った。

「では、おやすみなさい」
「…おやすみ」

背中を向けた黒子はやっぱりどこか楽しそうで、オレとしてはそういう黒子の雰囲気にのまれたのが悔しい。
その場にしゃがみこんでため息をついた。



オレの恋人が男前で困る



END


火黒の日おめでとうございます、末永くお幸せに……!


121011/風華香夜




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