10/28の日記

03:36
2week/11
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捕まえたタクシーのワイパーが忙しなく動く。
歩道を傘をさして歩く人影は、皆前屈みになって雨を凌いでいる。
大雨を直接浴びたせいで、ずぶ濡れといった有り様ではあったが、俺が真選組の隊服を纏っているからだろうか。タクシーは眉を顰めただけで、乗車を許可してくれた。
心配する近藤さんを半ば無理矢理に言いくるめて、とっつぁんの待つ料亭へ押し返し、俺は屯所へと急ぐ事にした。
ただただ車に揺られている、この時間がもどかしい。
到着までの道程に、気が急って仕方ない。

衣服に含んだ水分が座席まで染み付き、シートが少し色濃くなる。
運転手は俺の落ち着かない雰囲気を察してだろうか。時速ギリギリで走行してくれているようだ。
窓から空を見上げると、雲の厚みが緩やかに薄くなっているのが分かる。
それに伴い、雨脚も徐々に軽くなり、窓ガラスを叩き付けていた水滴の音も幾分か緩和されていく。
そのまま視線を外に向けて、走る道筋を目で追い、頭で残りの距離から到着の時間を割り出す。
もう後、何キロ。もう後、何分。と、思考を巡らせていないと、気がもたない程に余裕が無かった。

キッ、とタイヤが停止すると、俺は即座に財布の札束を全て掴み出し、運転手に渡した。
シートの件もあり、迷惑料を兼ねたつもりだが、札束の額に運転手が目を瞠ったことから、恐らくこれで文句は出ないだろう。
びしょ濡れのまま屯所の正門へと走ると、門衛の隊士がギョッと目を丸めて中へ導いた。
奴等の俺を気遣う声が聞こえたが、今は振り返っていられない。
俺は、目的まで一直線に駆ける。
コンコン、と軽快に釘を打つ金槌の音。
腐朽して廊下に雨漏りがする縁側の屋根。
野郎を見張ってろ、と命じたのに、山崎の姿はそこにはない。
ただ、意外と真面目に仕事をこなしていた万事屋の姿だけはそこにある。

「万事屋…ッ!」
「あれ?何?ずぶ濡れじゃん。ゴリラは一緒じゃねーの?」

梯子を使って内側から板を打ち込んでいた万事屋から、相変わらずのやる気のない声が俺に向けられる。
そんな野郎の言葉など、聞く耳持たずして俺は声を張り上げる。

「野郎は…!?」

ポタリポタリ。
滴が俺の髪の先から流れ落ちる。
そして俺は問う。



「――伊東は…ッ!?」



ずっと、傍にいたはずの男の名前を。



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