09/25の日記

02:16
2week/10
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会合の料亭とミツバの墓場が、たまたまそう遠くない距離にあった。
近藤さんは『トシの見送りに少し席を外す』と、とっつぁんに連絡を入れ、俺を連れて彼女の元へと訪れた。
ザアザアと止まない雨が墓石を濡らして、妙に寂寥感を感じさせる。
頭から雨を浴びる近藤さんに傘を半分差し出すも、互いに半端に濡れて大した意味をなさない。

先日、近藤さんと墓参に行った時は晴天だった。
彼女ではない。その時は隊士達への供養であった。
近藤さんは殉職した者、規律を犯して粛正された者、かつての俺達の仲間に黙祷を捧げていた。
手向けた花が、そよ風に揺れる。
俺はそんな近藤さんの後ろ姿と刻まれた墓標を、見詰めていた。
近藤さんの温情に、奴等は報われている。
そう感じていた。

現在と数日前。
少し、光景が重なる。
天候は違えど、こうして近藤さんと二人きりで墓参りに訪れ、過去を懐かしむ所など、記憶の再現のようだ。
そう言えば、先日は仲間にろくに鎮魂の祈りすら捧げていなかったと思い返す。
近藤さんの黙祷を見て、何故かあのときの俺は、嬉しさに似た安堵を覚えていた。

これでこいつは救われたんじゃないか、と。

――……。

(――……こいつ?)

刹那、視界が脳震盪を起こしたように揺れる。
パシャリと、反動で手から滑り落ちた傘が、地面の水溜まりで音を立てる。
俺の様子を察した近藤さんは、すぐさま肩を支え、慌てて名前を呼んだ。



『記憶とは希薄なものだ』

――近藤さんは、テメェを忘れたりしてねェ。

『記憶は移ろい行く』

――俺も、オメェを忘れたりしねェ。



違う。今と先日の光景が重なるなんて嘘だ。
俺と近藤さんの二人きりじゃない。

確か、あの時は――



ズキズキと、頭が痛む。
動悸で息切れを引き起こす。
集中して記憶の欠片を拾っていくと、断片的に形を成していく。
雨を遮る物が無くなり、頭から降り注ぐ冷たさに、思考がクリアになっていく。
最早近藤さんの、俺を心配する声など聞こえない。

あの時、俺は……
墓標を前にして、一度、隣へと視線を傾けていた。
ざわざわと木立が揺れ、俺の髪が風にあおられる。
俺の目の前には、一糸乱れぬ姿で真っ直ぐに近藤さんだけを見詰める男。

その横顔に、『答え』が見つかったのだと思った。



(ああ…。何で…)



何で忘れていたのだろう。

あの時は――三人でいたのに。

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