09/01の日記
02:29
2week/9
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座敷の廊下を少し進んで、角で足を止める。
俺の不祥事に対してのお咎めも覚悟していた。
警視庁長官の上司と局長に同行した上で、俺が場を悪くしてしまった。
まともに近藤さんの顔を見れなくて、顔を俯けてギュッと拳を握る。
すると近藤さんは、俺の頭頂部に手を乗せ――
「すまなかったな、トシ」
紡がれたのは、予想だにしない言葉だった。
俺は意外性に面食らい、唖然と顔を上げる。
「気づいてやれなくて悪かった」
「近藤さん……」
「とっつぁんが何とかしてくれる。今は顔も合わせづらいだろう。今日は先に帰れ、トシ」
「けど…俺のせいで…ッ」
「俺もとっつぁんも迷惑だなんて思ってねェ。寧ろ嬉しくすらあるさ。お前は自分を押し殺す節があったからな」
武州にいた頃のように、グシャグシャと髪を撫でられて、俺は子供扱いをする手付きの不服さと気恥ずかしさに近藤さんの手を払った。
近藤さんが苦笑してすんなりと手を引くと、締め切った座敷から再度芸者が三味線を奏でる音が漏れてきた。
とっつぁんの手腕で、何とか事が収まったのかも知れない。
それには近藤さんも安堵したようで、足取りも軽く、旅館のロビーへと降りていく。
「うわ、まだ雨風強そうだな」
玄関に出れば、三味線に混じり土砂降りの雨音が耳に届いてきた。
来るときはとっつぁんの車に同乗して来たから、傘は持ち合わせていない。
「誰かに迎えに来て貰うか」
「構わねえよ、近藤さん。その辺でタクシー拾うわ」
一番気兼ねなくパシリに出来る山崎は、今日は非番だ。
俺は帳場に立ち寄り、受け付けに傘の購入を申し出る。
そこで近藤さんが、短く「あ」と声をあげ、こちらに振り返ると、指を二本立てて見せた。
「傘、もう一本追加で下さい」
それから続けざまに彼はこう言った。
「トシ、墓参り行こう」
――――
この大雨だ。
折角の墓花もすぐに萎れてしまうだろう。
沖田ミツバ。
ここには彼女が眠っている。
悪天候によって線香もろくにあげられなかったが、墓石にはまだ真新しい墓花が添えてあった。
恐らくは総悟によるものだ。
それに比べて、俺は墓参りもろくに行ってやれていなかったと痛感する。
「暫くご無沙汰してすみませんでした。ミツバ殿」
近藤さんが、傘を地面に置き、濡れるのをいとわずに両手を合わせる。
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