スモエー部屋2
□Just be friends.
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割れたグラスを拾った時、紅い雫が指を伝った。
裂けた指先を舐めると、微かに鉄の味がした。
この雫は一体どこに帰るんだろう。
この想いは一体どこに帰るんだろう。
帰る場所を無くした痛みを飲み込み、粉々になったグラスを前にしゃがみこんだ。
割れたグラス。
飛び散った欠片達。
何ひとつ戻らないピース。
舌に残る鉄の味を呑み込み、空の椅子を視線でなぞった。
この指定席にはもう、誰もいない。
声を上げて泣く事など、遥か遠いアルバムの中に残して来てしまった。
バスタブの栓を抜いたような勢いで出ていた涙はもう出ない。
これが大人になる事ならば、どれだけの物を過去に置いて来たのだろう。
伝わない涙は掠れた息となり胸を縮ませた。
浮かぶのは大して幸せでも無い日常ばかり。
鎖だと思っていた縁は細い糸だった。
簡単に切れてしまうと分かっていたなら大切にできたのだろうか。
きっと戻れない。
優しかった日々はこの記憶から消えて行くだろう。
途切れた糸の先には、何度も絡ませた小指。
ほころんだ糸はもう結べない。
縒り直す事など、二度と出来ない。
割れたグラスが直らないように。
流れた雫が固まったように。
あの優しかった日々と、同じように。
END