スモエー部屋2
□keep in touch
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「……???」
ジジ、と灰が落ちそうになり、慌てて灰皿に手を伸ばす。一瞬何を言われたのか理解できなかった。
(ん…?ああ、そう言う事か…。)
しかしハテナが飛び交う頭の中、ふと良くある光景を思い出した。
会社の若い男らがよく「カッコいいっスね」と言ってくるのと同じだと気付き、タバコをくわえる。
まさか突然こんなオッサンに告白まがいの事をするワケが無い。何でもすぐに決めつけるのは自分の悪いクセだと自らを戒め、ゴホンと咳をした。
「…そうか。」
「ええ。そうなんです。」
そこまで話した時、コーヒーが運ばれて来た。
コトリと置かれたカップは温かく、かじかみ始めていた指先にじわりと温度が染みる。
「オレ、いつも店の中からあなたを見てました。」
“渋い、カッコいい、ダンディ、いぶし銀。”
これらは散々言われて来た褒め言葉。
「ずっと思ってたんです。」
どうせそんな事だろうと思い、話半分に聞こうとコーヒーを飲む。
「……めちゃくちゃタイプだなあ、って。」
「Σブホッ!ゴホゴホッ!!ι」
突然聞こえて来た予想外の台詞に、思わずむせた。
「だっ、大丈夫ですか?!ι」
立ち上がりかける男を大丈夫だと手で制し、紙ナプキンで口を拭く。
今、この男は何と言った?
間違いなく、オレの事を“タイプ”だと言った。
「いつ言おうかずっと迷ってたんですけど…、今日たまたまあなたを見かけたから…。」
だから勇気を出して言ってみたんです、と照れたように笑う男の顔をマジマジと見つめる。
…オレの思い込みでなければ、これはいわゆる世間一般で言うところの“愛の告白”と言う物ではなかろうか。
言っておくが、オレは男だ。そしてこいつも男だ。いや、実は男っぽい女なのかもしれん。それともオレが女に見えたのか。それは無い。無いだろう。無いんじゃないのか。そう言われると自信が無い。少し髪が伸びたのが悪かったか。
突然の事に混乱し明らかにズレた思考に陥っていると、そいつは少し困った様に笑った。
「…ですよね。いきなり男に告白なんかされたら、絶対引きますよね。」
すみませんでしたと謝りコーヒーをすする男に、やはり男だったかオレの目に狂いは無かったそしてオレは男に見えていた良かったと意味不明な安堵をし、とりあえず短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
「いや…すまん。少々驚いただけだ。」
久々に面と向かって告白をされた物だから面食らっただけだと答え、新しいタバコに火を点ける。
しかし今の世の中、男だからとか女だからとか性別で決めつけるのもナンセンスだろうと思いながら煙を吐いた。
同性と付き合っている人間も今では珍しい物では無いし、オレ自身性別に偏見がある方ではない。
仕事なんかはまさにそうだ。男女関係無く割り振っているじゃないか。
ちょっとでも女扱いしよう物なら「私が女だからですか」とキーキー怒る女子社員と、そこらの女よりはるかに料理上手で気が利く男子社員がチラリと脳裏をかすめた。
「そうですか…良かった…。」
安心した様にホッと胸を撫で下ろし、一世一大の告白だったんですと頭を掻くそいつを見て、強張っていた身体から力がフッと抜けて行くのを感じた。
…こんなオヤジに告白するなんて、きっと物凄く勇気が要っただろう。
「…で、オレはどうすればいいんだ。」
とりあえず、どうすればいいのか分からず尋ねてみた。
告白されたのはいいが、いきなり付き合いませんか等と来られたらそれはさすがに困る。
偏見が無いとは言えいかんせん男と付き合った経験が無いし、だいたい女だとしてもいきなり付き合うなんて出来ない。
しかしこんなに一生懸命告白をしてくれたんだからその気持ちを無下にする事はできない。
断るにせよ精一杯誠意を持って対応すべきだと肝に命じタバコを吸った。
「…いえ、特に何もしなくて…いいです。」
しかし今盛大に告白をした男は小さく手を振りながら、言いたかっただけなので全然気にしないで下さいと小さな声で繰り返しただけだった。
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