スモエー部屋2

□夢で逢えたら
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カラ…


鍵のかかっていない窓を静かに開き、中を覗く。簡単に侵入できた部屋は薄暗く、少し乾いている様に感じた。


(寝てる…?)


外からは死角になっているベッドに目をやると、銀色の髪が布団からのぞいているのが見えた。

小さく息を吸い、部屋の中へと身体をすべり込ませる。足音をたてないようにベッドへと近づき、窓を向いてかすかに寝息をたてている人物の顔をそっと覗き込んだ。


(…疲れてんのかな。)


普段ならば窓を開けた時点で飛び起きるはずなのに、今日はぴくりとも動かない。よっぽど疲れているのか、深く寝入っている。

こんな珍しい事があるなんて。
少しだけ嬉しくなり、寝ている男の顔を良く見ようと床にあぐらを掻いた。


少しだけ伸びた髭。
固く閉じた瞳。


葉巻の無い口がなんだかとても無防備に見えて、指先でそっとなぞってみた。


しかし触られた当人は起きる事なく少し眉をしかめただけだった。



(本当に寝てんだ…。)


再度驚くと共に、トレードマークの眉間の皺が消えてちょっとだけ幼く見える寝顔にクスリと笑った。



希少な自然系の能力で海賊から恐れられ、海軍の中でも野犬と呼ばれ名を馳せる。

そんな男の無防備な姿が今、目の前にある。


滅多に見られないシャッターチャンスを逃すまいと穴が開くほどにまじまじと見つめた。



(そう言えば、こうやってちゃんと顔見るの初めてだな…。)


遊びに来た時にはすぐにベッドインしてしまうから、こんなに顔をじっくりと見た事は無い。

離れていた時間を埋める為には身体を繋げるのが一番手っ取り早い方法だと思っているから、仕方ないのだけれど。



相変わらずぐっすりと眠る顔を眺め、頬杖をつく。ぴくりとも動かない表情を見つめ、ため息をついた。



「…帰る、か。」



せっかく来たけど、わざわざ起こす事も無い。
名残惜しいけど、こんなに疲れている人を起こすなんて事はできないから。




(…キスくらいしたって、バチは当たらないよな。)



せっかく来たんだから、これくらいは許されるはず。

寝顔を見下ろし、軽くついばむようなキスをした。


するとその瞬間、目の前にある唇がフッと緩んだ気がした。



(……ん?)



かすかに動いたような気もする。



(寝言…?)



なんだろうとそっと口元に耳を傾けると、途切れ途切れの声がかすかに聞こえた。







「……エー…ス…。」






聞こえて来た言葉に、思わず目を丸くした。

もしかして、今目の前の男が呼んだのは自分の名前じゃないだろうか。


まさかと思いながらもう一度口元に耳を寄せる。






「…寒…くな……い…か…。」





それに続き、今度は左側に布団をかけるような仕草をしている。

それを見て、今更ハッと気が付いた。
良く見るとスモーカーはベッドの中心よりだいぶ右側に寝ている。


誰もいない左側に未だ布団をかけようとしている姿を見て、思わず吹き出しそうになった。




「バ、カ野郎……//」



もしかしたら、この空いた左スペースはオレの為なのだろうか。




(…あんた、夢の中までオレの面倒見てんのかよ。)



肩を揺らし、クックッと笑いを噛み殺した。



野犬。
白猟。


色々と物騒な呼び名を持つ男。
そんな人間がまさかこんな寝言を言うなんて。





「似合わねェよ…。」



寝ぼけた手が止まるのを待って、銀髪をそっと撫でた。



穏やかな寝息が広がる小さな部屋。




「…また来るから。」




夢の中の自分にちょっと嫉妬しながらきびすを返した。



(おやすみ、スモーカー。)



次に逢った時は本物のオレに同じ事をしてもらおう。



まだ暗い海。

月の光が反射する水面を見下ろし、窓から静かにストライカーへと飛び降りた。






END
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