スモエー部屋2

□幸せな季節
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“あと何度人を好きになれるだろう”


さほど長くも生きていない道のりを振り返り頬杖をついた。


こうして散り行く桜を眺めるのも、あと何回か。


人間ができる事の回数なんて全て最初から決まっているんだ、と何かの本で読んだ事を思い出す。


ため息をつきながらも、このため息すらあと何回つけるのだろうともう一度息を吐いた。


窓の向こうは花吹雪。

淡い桜色が水色の空を染めて行く。

桜を“桜”だと認識したのはいつ頃だったか。

それから数えても、まだこの瞳は十数回しか桜を見ていないんだろう。


長生きしてもせいぜいあと60回くらいしかこの景色を見られないと思うと少し切ない気持ちになり、風に揺らぐ薄紅色の花弁を改めて見つめた。


ふわり


「?」


突然感じた軽い感触に振り返ると、肩にブランケットが。


「何を眺めている。」


それと同時に響いた声に、恋人がかけてくれたんだと言う事に気付いた。


「…桜?」

「疑問系か。」


優しく笑う瞳に、にっこりと微笑みを返す。


「桜、だよ。」


柔らかいブランケットに鼻をうずめ、もう一度窓の外に目をやった。


風に転がる花びら。

今は白く薄紅い色も、数時間経てば茶色く濁ってしまう。

想い出とはまさに真逆だと感じ、ブランケットに潜む優しい香りを吸い込んだ。


「寒いか?」


優しく響く声に、瞳を上げた。



「…寒い。」



そう言った途端、ジャケットを脱ぎにかかる目の前の男。


「いいよ。大丈夫。」

「寒いなら着ておけ。」


ブランケットの上から更にかけられるジャケット。


上乗せされる優しい香りが身に染みた。




(……よし。)




心の中で、密かに決心をした。

ずっと言えなかった言葉を言う時が来たのかもしれない。


やっとこの日が来たのかと長い日々が頭を流れる。


見上げれば、優しく見下ろす瞳。


ああ、好きなんだ。



今日こそ言おう。

今日ならば言える気がする。







「なあ。」


「ん?」




見下ろす瞳に、ゆっくりと告げた。







「…家族、にならねえ?」







大切な時間、大切な人。桜の季節、始まりと終わりの季節。


転がる花びらみたいに茶色くならないよう、いつまでも側で咲いていたいから。

これからの人生で見られる、限られた桜を全てあんたと見たいから。



それは最後の恋人だけに贈る、最大の愛の言葉。





“家族、にならねえ?”






END
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