スモエー部屋2
□春告草
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(疲れた…。)
今日の振り返りと明日の予定を頭で整理しながらヨロヨロと歩くマンションの廊下。
当然のように残業が続く毎日。タフだと思っていた身体も最近の忙しさに負け、引きずるように重い。
“疲れた”と言えないのが人の上に立つ者の定めだと分かっていても、ぼやいてしまいそうになる瞬間がある。
ガチャ
静かにドアを開け中に入ると、相変わらずの光景に思わずため息が漏れた。
(またか…ι)
暗がりの中に見えたのは上下左右お構い無く転がっているスニーカー。やれやれと思いながらもそれを揃え、電気をつけぬままリビングへと歩く。
普段ならば灯かりがついている部屋が暗い。と言う事は、スニーカーの持ち主である同居人が寝てしまったと言う事だろう。
(…だろうな。)
普段よりも遅い時間になったと言う事もあるが、何より今朝方些細な事から険悪な空気になってしまった一件が関係しているのだろう。
分かってはいたが、灯かりの無い家に帰ってくるのは精神的にくる物がある。
そんな事を思いながらリビングのドアをそっと開けた。
真っ暗な室内。
きっと雑誌やら何やらが床に投げられたままだろうからと、足元に注意しながら電気のスイッチを押した。
「ん…?」
しかし電気が点いた瞬間、見慣れない物がテーブルの上にある事に気が付いた。
一輪挿しの花瓶に一枝の白梅。そして梅の前にはチョコレートとティーカップが並んでいる。
「……???」
これは一体何を意味しているのだろう。
新手の嫌味だろうか。
だいたい怒らせてしまった日は基本的に晩飯が無い。
外で勝手に食って来いと言う事だろうと解釈はしているが、しかしこんなのは初めてだ。
「???ι」
まさか毒入りだろうか。
アーモンドチョコレートと言う時点で青酸カリかもしれない。
かなり疑心暗鬼になりながらテーブルの前で固まっていると、どこからか視線を感じた。
「?………何をしているんだ…ι」
視線を感じる方向を向くと、ふすまの隙間からこっちを怨めし気に見ている目が見えた。
(…起こしたか?)
悪かったと思いながらネクタイを緩めていると、さも不機嫌そうな声がふすまの向こうから聞こえた。
「…許してないんだからな。」
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