スモエー部屋2

□クローゼット
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「…なるほど。」


扉を開け、最初に口から出た言葉は意外と冷静な物だった。

ここは海軍船。そしてここはオレの部屋。
昼食を済ませ会議に出席し、戻って来た…のはいいが、扉の向こうはいつもの見慣れた風景ではなかった。


数時間前まで本棚に収まっていたハズの書類や本は床に散らばり、綺麗にファイリングしてあったFAX紙は机の上にこれでもかと言う程散乱している。

石積みの石はそこかしこに転がり、朝飲んでそのままにしておいたコーヒーカップはただのカケラに変貌している。


そして何よりも目につくのは、部屋の真ん中で正義のジャケットを羽織り「ホワイトブロ――ッ!!」と叫びながら今まさに手袋を壁に向かって叩きつけているポートガス・D・エースの姿だった。



「…で、お前は何をしているんだ。」


壁からずり落ちる手袋の無惨な最期を見守った後冷静に声をかけると、ひとり大騒ぎをしていた瞳が素早くこっちを向いた。


「あっ!スモーカー!!」


見て見て、と嬉しそうな顔をしてこっちを見る瞳に首を傾げる。



「?」


「いい?やるよ?」


そう言うとエースは背中の十手にサッと手をかけた。


「…見逃せ、だと?そうはいかねぇ!お前が海軍でオレが海賊である限りな…!!スパー」


「………。」



このバカは一体何を言っているのだろう。

いつもの事ながら意味不明な言動を受け流し、ただポーズを決める姿を見つめる。

少しクセのある黒髪をどうにかしてオールバックに撫で付け、火のついていない葉巻を二本くわえ、勝手にクローゼットから出したのであろう正義のジャケットを着て十手を背負っている。


「…オレの制服を着て“海賊”と言われても困るんだが。」

「あ、間違えた。えーと、オレが海軍でお前が海軍である限りな…!スパー」

「それじゃ両方海軍じゃねぇか。」

「あ、そっか。」


じゃあどうすりゃいいんだと肩をすくめる姿を無視し、後ろ手にドアを閉めカギをかけた。


「…だいたい最後のそれは何なんだ。」

「え?“スパー”?」

「そうだ。なんだ、それは。」

「決まってんじゃん。あんたが葉巻吸う音。」

「………。」


散乱している物を踏まない様に避けながら何とか椅子までたどり着き腰掛ける。

エースは相変わらず鏡に向かって目の端を指で無理矢理引っ張り三角にしながら誰かの物真似を続けている。


「フハハハハハオレは海軍本部大佐、スモーカー。そこのキミ、クソくらえ。スパー」

「…今は准将だ。」

「あ、そうだっけ。」


海軍の肩書きは多すぎてわかんねぇやと頭を掻く姿にもう一度同じ質問を投げ掛けた。


「…で、お前は何をしているんだ。」

「ん?だから、スモーカーの真似してんだよ。似てるっしょ?」


相変わらずご機嫌でポーズを決め続ける姿を見てため息をつく。


「…何だ、この部屋は。」


まるで泥棒が入った後の様な荒らされ方の部屋を見渡し、煙を吐く。


「どう遊んだらこうなるんだ。」


未だ「斬り捨てごめん」等間違った台詞を叫びながら十手を振り回している後ろ姿に声をかけると、エースはさも嬉しそうに振り返った。


「あー、ごめん。探し物してたんだ。」


相変わらず緊張感無くヘラヘラと笑う顔に、会議で張り詰めていた心が和らぐのを感じた。


「オレの部屋で、か。」

「うん。」

「何を。」


「…隠し場所?」



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