スモエー部屋2

□下弦の月が昇る頃
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仕事終わり、冷たい風が吹く夜の街。


従業員通用門を抜けてすぐiPodを起動させ、ヘッドホンを耳に押し込んだ。

スタートボタンを押すと流れ出す朝の続き。



吐く息は白。

見上げれば黒。



昇りかけの月を見つめ、流れるメロディに神経を集中させた。



“君が好き”



そんな甘い歌詞が耳を通り抜ける。




“君が好き”


“君が好き”




何度も繰り返される歌詞に、昨夜耳元で囁かれた言葉を思い出し思わず笑みを噛み殺した。


あんな顔してあんな甘い言葉を紡ぐなんて。



(反則にも程があるって…。)



厳つい風貌、低い声。
硬い銀髪、鋭い瞳。


職場の人達から陰で“鬼”と呼ばれている事を知っているから、尚更笑いが込み上がる。


まさかベッドではあんなに甘いだなんて、誰も知らないだろう。




太い腕と厚い胸板に抱きしめられ、あの低い声で甘い言葉を囁かれる幸せ。




(オレ以外、誰にも知られる事がありませんように。)



そんな事を思い歩く夜の道。


今日もきっと、甘い言葉を囁いてくれるだろう。




“―――――。”





離れていても幸せな時間。

傍にいるなら、尚更幸せ。


空には半分の月。


負けない程の曲線を口元に浮かべ、愛する人が待つ家へと向かう帰路。


淡い光が、跳ねる黒髪を優しく照らした。






END
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