スモエー部屋2
□冷たい左手、温かい右手
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ひとつ、ため息をついた。
side:ACE
昼下がりのファミレスは、まるで子連れの座談会場。
走り回る子供を叱ろうともしない親達。
近所の誰かについて愚痴り続ける声が耳障りで、席を立った。
カラン、カラン
ドアを開けた瞬間に吹き込む春の風が輪郭をなぞる。
ふわりと心地よいその感触に、今は隣にいない誰かの手を思い出した。
去年までは隣にいた人。
オレが一方的に切ってしまった縁。
別れたいワケでは無かった。
ただ自分の弱さに耐えきれず、逃げてしまった。
愛される事に慣れない自分を愛してくれた人。
その愛情を受け止めきれず、疑心暗鬼になり、最終的に逃げ出した。
幸せには必ず終わりがやって来る。
それがただ怖くて。
“何も聞かないで”
それだけ告げて鍵を返した時、黙って受け取ってくれた手は温かかった。
冷え性のオレの手をいつも握ってくれた手の平。
“スモーカーの手は温かいから、きっと心が冷たいんだね”
そう言って笑った昔を思い出す。
だけどそんな事、ウソでも思った事は無かった。
毎晩繋いでいてくれた手の平。
離したのは自分。
小さなアパートでひとり丸まって眠る夜には、未だ慣れない。
どこか寂しい青空を見上げ、鳴るはずのない携帯を握った。
もし、もう一度逢えるなら。
叶うことのない願いだけど
この手を温めて欲しい。
まだ青い春風。
冷たいままの右手に小さく笑い、そっとポケットに突っ込んだ。
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