スモエー部屋2
□DRC
1ページ/3ページ
「今年ももう終わりか…。」
大晦日の夜。
“新年に向け世界中がカウントダウン”と言うニュースが流れるTVをぼんやり眺め、ひとり呟く。
明日は元日。
…オレの、誕生日。
ライトアップされたエッフェル塔やタイムズスクエアの映像を観てため息をついた。
「オレ、絶対損してるよなあ…。」
思い起こせば早20年。
物心ついた時から誕生日は正月と一緒にされ、酷い時にはクリスマスと一緒にされた事もあった。
勿論学校は冬休み中。友達に祝ってもらった記憶も無い。
毎年そんな事を思い出してしまう今年最後の夜。ちょっと虚しい気持ちになりプツリとTVを消した。
「ふあーあ…。ん…そういえば…。」
ゆっくりと伸びをしてソファーにもたれた時、そんな不遇な環境をぼやく度良くかけられた慰めの言葉がふと頭をよぎった。
“元日生まれは社長になる人が多い”
生まれてこの方、何度も聞かされてきた説。
(“社長”か…。)
本当かよと悪態をつき、頬杖をついた。
だいたい、「多い」と言うだけのデータを出されても困る。どうせならどの職種の社長が多いかくらい調べて欲しい。
まあそうは言ってもオレが社長になれる確率なんて小数点以下だろうと思いながら、ごろんと寝転がった。
「…何をそんなに考えているんだ。」
「ん?」
不意に声が聞こえ見上げると、この家の主が覗き込んでいた。
「眉間に皺が寄ってるぞ。」
そう言いながらタバコを吸っているこの男はここの家主、スモーカー。
そして、オレの恋人。
「何を考えてた?」
「………。」
オレみたいなフリーターとは違い、正真正銘社長と言う肩書きを持つ男の顔を見てプイッとそっぽを向いた。
「…どうやったら社長になれるか考えてた。」
「?」
不思議そうに首を傾げる姿を横目で見る。
「…なあ、社長って楽しい?」
「なんだ、急に。」
訝しげな表情を浮かべる厳つい顔を見て、不意にピンと閃いた。
「あっ、そうだ!一回オレに社長やらせてよ!」
「あァ?ι」
ガバァと起き上がり、やったとばかりに叫ぶ。
「1日署長的な感じでいいからさ!」
あんたの会社だろお願いと頼んでみると、スモーカーは見るからに“アホか”と言う表情で口を開いた。
「ダメだ。」
「Σえー!!なんで!!」
全く何を言い出すかと思いきやと呆れた様な顔をして灰を落とすスモーカーにもう一度噛みつく。
「いいじゃん!!1時間でもいいからさ!」
「1分でもダメだ。」
だいたい何でそんなに社長になりたいんだとため息をつかれ、ブーと口を尖らす。
「だって、元日生まれは社長が多いって言うじゃん。」
“エース社長”とか呼ばれてみたいんだよと言い、社長室でふんぞり返る自分の姿を想像しムフフと笑った。
「全く…。」
バカかと煙を吐き出す姿にキィーと噛みつく。
「Σいーじゃん!夢見たっていーじゃん!一回くらいいーじゃん!」
「…盆、正月関係無く働きづめでもなりたいと思うか?」
フゥと煙を吐きながらこっちを見下ろす冷たい目線に、グッと言葉が詰まる。
「そ、そう言われると…ι」
「だろうが。」
やれやれと頭を掻く仕草を見て、ふと今年の始まりを思い出した。
元日、スモーカーは取引先と約束があると言って朝早くからゴルフバッグを担ぎ出て行った。
“薄情者”と叫ぶオレを置いて。
初めて一緒に迎える誕生日なのに何と言う仕打ちだと憤慨したのを思い出す。
帰って来たのは夜中。“すまん”のひと言でもあるかと思いきやスモーカーは「疲れた」とだけ言って寝室へ消えた。
オレは怒りに震え、速攻でワインセラーに向かい普段お客さん用にとってある高額品用棚からワインを2本取り出し勝手に飲んでやった。
ラターシュだかロマネなんとかだか知らないがとにかく高そうなのを選んでラッパ飲みし、そのまま酔いつぶれて寝てしまった。
次の日床に転がるボトルを見たスモーカーの拳が若干震えていたような気がしたが、特にお咎めは無くその後ミスドでドーナツを買って来てくれ「悪かった」と謝ってくれたから許した。
しかしいくら位のワインだったのか気になり後からネットで調べてみた所、オレが飲んだのは総額でオレの年収より高いと言う事が判明した。
よくスモーカーは怒らなかったなと少し気が咎めたが、まあ飲んでしまった物は仕方がない。それ位で怒るようじゃ社長は勤まらない。
しかしそんなに高いワインとは知らなかった。やはりオレには見る目があると思った。違いのわかる男、オレ。だが味はシャンメリーの方が好きだ。
「…で、もう社長は諦めたのか。」
カットインした声にハッと我に返ると、いつの間にかスモーカーが隣に座っていた。
.