スモエー部屋2

□愛の言葉
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(もうこんな時期か…。)


残業終わり。PCを落としふと頭を上げた瞬間、壁にかかるカレンダーと目が合った。



「…もうすぐ、か。」


誰もいないフロアに響く声。


椅子から立ち、背にかけていたジャケットを手に取り鞄を持つ。

残り1枚となったカレンダーに一瞥をやり、パチンと電気を消した。


今月で、今年が終わる。
今年が、今月で終わる。



びゅう



会社を出た途端強いビル風がコートを揺らす。
空を見上げると月の傍に光る金星が綺麗に見えた。


もうあと数日で今年も終わってしまうのか。
速い雲の流れが時計の針とリンクし、少し気持ちが焦る気がした。


今年が終われば、来年が始まる。

12ヶ月の終わり、そして始まり。その狭間をどうするか考えるようになってから数年が経つ。


大晦日や正月に興味があるワケではない。ただ、たったひとりの人間が産まれた日だと言う事に興味があるだけ。


これまで全く他人に興味を示さなかった自分自身を思い返し、ふと笑った。


数年前ならば、きっと理解出来なかった。



たったひとりの人間に出逢い、恋に堕ちた。
それからオレを取り巻く全てが変わった気がしたのは、きっとオレ自身が変わったからなんだろう。


たったひとつ失いたくないものができるだけで、人間はこれほどまでに変わる事ができるなんて。


自分中心で生きていた世界の“中心”が変わった時、世界の広さを感じた。

“ありがたい”と言う意味が初めて解った気がした。



生まれて来た事に感謝する日がくるなど、思いもしなかった。

そして何より“他人”であるアイツを作った全ての事に、頭を下げて礼を言えると本気で思えるなんて。




(…早く帰ろう。)



足早になる帰路。
早く帰りたい理由も、数年前までは知らなかった事。


この革靴が作る音でドアの前に立った瞬間鍵がカチャリと開かれる幸せ。


“おかえり。”


そう言って開かれたドアから漏れ出す暖かい光ととびきりの笑顔。

どんなに疲れていようがどんなに嫌な事があろうがその瞬間に全て吹っ飛ぶ、なんて事があるなんて。



さあ、今年の終わりと来年の始まり。
その狭間にお前は何が欲しい?



(…何だってやってやる。)



そんな事を思いながら歩くマンションの廊下。

固いコンクリートの床、乾いた靴音が響く。


見馴れ切ったドアの前に立った瞬間、カチャリと回る鍵の音。



“おかえり。”




数秒後に紡がれるはずの言葉は、抱きしめたスーツの繊維に飲み込まれた。


変わり無く暖かい光、暖かい香り、暖かい温もり。


今年も幸せな一年をありがとう。

そしてきっと幸せになるであろう次の一年にも、その次の一年にも。


コイツと過ごせるこれから先の未来全てに感謝を込めて。



不思議そうに見上げる黒い瞳にそっと呟き、もう一度抱きしめた。




「…ありがとう。」




それはきっとどんな睦言よりも素敵な、愛の言葉。






END





Happy birthday,ACE!!
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