スモエー部屋2

□keep in touch
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「うまくは言えませんが…。人混みの中であなたを一番に見つけられる位、好きです。」


そう言って真っ直ぐこっちを見つめる男の顔を見て、思わずコーヒーを吹きそうになった。

なぜオレは真っ昼間からオープンカフェに男とふたりでいるのか。
そしてなぜこんな告白を受けているのか。
その理由は、少し前に遡る。


昼休み、たまには外で食うかと入ったのは会社から少し離れたカフェ。
禁煙ブームの昨今、喫煙者は肩身が狭い。わざわざ食後に外に出て吸うのも面倒だと思い、寒いが最初からテラス席を選んだ。

店員の好意に甘えブランケットを借り、誰もいない外で食べていた時。隣のテーブルに男が座った。


同じ様にブランケットを手にした黒髪の若い男がひとり。
こんな寒い中テラス席に座るくらいだから、きっとコイツもヘビースモーカーの類なのだろう。
特に気にも止めず飯を済ませ、タバコに火を点けた。


店内から微かにクリスマスソングが聴こえた気がして通りを見渡すと、緑や赤、ゴールドの色彩で溢れている事に今更気付く。
毎年特に予定も無い為、世間のカレンダーにはさっぱりついて行けていなかったらしい。


(…そういや、もうすぐクリスマスか。)


だいたい毎年末は仕事が大詰めな上、残念ながら一緒に過ごすような相手もいない。
改めて自分の身辺を思い、寂しいモンだなと煙を吐いた。



「寒いですね。」


その時、不意に声が響いた。


「…?」


まさかオレじゃあるまいと思いながらも声のした方を振り返ると、先程の男がこっちを見ていた。


「寒くないですか?」


もう一度柔らかいトーンで話す男に少し驚く。


「あ、ああ…ι」

「おひとりですか?」

「あ?ああ…。」


人懐こく話しかけて来られ戸惑っていると、そいつはクスクスと笑った。


「ああ、しか言ってないじゃないですか。」

「ん?あ、ああ…悪い。」


そう答えると「ホラまた“ああ”って言った」と笑われ、頭を掻いた。

ニコニコと愛想良く向けられた瞳。こんな無愛想な男に話しかけるなんて、よほどの人好きなのだろう。


「いつもココ、来るんですか?」


静かに昼休憩を過ごすつもりだったのにと思いながらも、渋々答える。


「…たまに、な。」

「ですよね!」


だって何回か見た事ありますもんと笑う顔に、そうなのかと首を傾げた。

平日のランチ時、喫煙席に座る人間はある程度決まっている。大体見たことのある顔がほとんどだが、この男は記憶に無い。
はてどうだったかと頭の引き出しを端から開けていると、男が店員を呼んだ。


「すいませーん!コーヒー下さーい!…あ、コーヒー頼みます?」


いつもホットですよね、と確認する男にこくりと頷き灰皿に灰を落とす。


…ここまで向こうが知っているのに覚えていないとは。記憶力には自信がある方だったがと悩んでいると、男がまた口を開いた。


「…実はオレ、タバコ吸わないんですよね。」


だからオレの事知らないでしょ、と自らを指差して笑う顔に疑問が湧いた。

じゃあ、何故この寒いテラス席にいるのか。

よっぽど顔に出ていたのだろう。男はハハッと笑い、ですよねと呟いた。


「こんな寒い中にタバコも吸わない男がなんで外の席にいるんだ。…でしょ?」


顔に書いてますよとクスクス笑う男に、バツが悪くなり額を掻いた。


「いや…そんなワケでは…。」

「いえいえ気にしないで下さい。」


オレだってそう思いますもん、と笑う顔をマジマジと見る。
では、なんで外にいるのだろう。


「……でも、何でオレがココにいるのか…気になりません?」


未だ人懐こく話しかけて来る男。そう言われればそうだなと答えると、そいつは一際にっこりと笑った。





「実はオレ、あなたの事が好きなんです。」





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