スモエー部屋2

□ご主人様は執事に夢中
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コンコン


「スモーカーさん、コーヒーをお持ちしました。」


品の良いカップとソーサーが乗った銀の盆を手に、目の前の大きな扉に向かって一言告げた。


「…入れ。」


中から低い声が響いたのを聞いて、ドアノブに手をかける。


「失礼致します。」


キィ…パタン


中に入ると、相変わらず机に向かい黙々と仕事をするこの部屋の主がいた。


「ああ、そこに置いてくれないか。」


ちょっと今デスクが散らかっているからと指差された先にあるのは、ハイチェスト。


「…いえ、お待ちしております。」

「そうか。」


じゃあちょっと待ってろすぐ終わらせるから、とPCに向き直る姿に会釈をする。


…こんな所に置いて帰ったのが先輩方にバレたらいくらなんでも咎められる。

“数分さえ待てないんですか”と淡々と怒る眼鏡の男を想像して気持ちが萎えた。


カタカタとキーボードを打つ音だけが響く広い書斎。

こんな広い部屋が数え切れない程あるこの屋敷は、この目の前の人物の持ち物。長者番付にも毎年名を連ねる大企業の社長。これほどの財を一代で築いたこの人に、オレは執事として仕えている。



「あの…コーヒーが冷めてしまいますが…。」


未だカタカタとキーボードを打ち続ける主人におずおずと申し出ると、スモーカーは思い出した様に頭を上げた。


「あ、ああ、悪かった。」


ちょっと待て今片付けると言って、大量の書類をまとめて行く姿を眺める。


(…しかし良く働くなぁ…。)


普通社長とかは適当にしているもんかと思っていたが、この人に仕えてから考えを改めた。物の見事に毎日朝から晩まで、公から私まで休み無く働いているから。


メイドや執事達が心配する位、本当にずっと働いている。


しかし、“どうやって息抜きをしているのか”と言う話題が出た時はさすがに黙っていたが。


「…すまない。頂こう。」


低い声にハッと頭を上げると、すでにデスク上にはスペースが出来ていた。


「失礼します。」


右隣に立ち少しぬるくなっただろうコーヒーをいつもの様にデスクに置くと、突然するりと腰に手が回された。



「…仕事中ですよ。」

「奇遇だな。オレもだ。」


心なしか嬉しそうに顔を覗き込んでくる視線から逃れるように目を反らすが、身体は簡単に抱き寄せられる。


「息抜きだ。」

「…仕事中ですから。」

「オレの言う事を聞くのも仕事の内じゃないのか?」


座ったままオレの腰に両手を回し、優しい瞳で見上げる顔を見てため息をつく。


「ハァ…そうですけど…ι」


それを言われたら、何も言えない。主人に仕えるのが執事の役目。それは重々承知している。




実はオレ達は“恋人”の関係だ。

初めて仕えた日に気に入られ、その日の内に美味しく頂かれてしまったのが始まり。まさか男色家だとは思わなかったが、どうやら向こうも男とは初めてだったらしく。

本人曰く一度限りのつもりが身体の相性がすこぶる良くて忘れられず、何度も求めてしまううちに愛情が生まれてしまったと言う事らしい。
オレも何回も抱かれるたびに感度が増して溺れてしまった上熱い求愛に負け、今では完全に心も身体も公も私も全て捧げてしまっている。



「…まったく…ι」

渋々盆もデスクに置き、頭を掻く。見上げる視線は真っ直ぐにオレを見つめ、それでいいと言わんばかりに軽く頷いた。


「けど…こんな事は仕事の内に、ぅ、わッ!ι」


話している途中、グイッと身体を引っ張られ、膝の上に向かい合う形で座らせられる。


「ん?なんだ?」

「Σなんだ?じゃないですよ!!ιこんなの仕事の内に入らないって言ってン…ッ!」


膝に座ったままキーッと毛を逆立てて怒ろうとしたら、今度は唇を塞がれてしまった。


「フ…ァ…ッ…やめ…っダメ…で…すッン…!///」


抵抗するも口元がベタベタになる程に熱いディープキスを贈られ、思わず中心が疼き出してしまうのを感じる。


(ダ…ダメだ…っ!ι//)


このまま流される訳には行かない。まだまだ仕事はたくさん残っている。眼鏡男に頼まれている買い出しにだってまだ行けてないのに。






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