スモエー部屋2
□その花が咲く頃に
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その人と過ごしたのは、合計して1年程の期間だった。
そもそもの出会いは親戚の集まりにて。
光に映える銀髪。
デカイ身体。
常にくわえている煙草。
座っているだけで強烈な存在感を放つ遠縁の叔父にほのかな憧れを抱くのは、幼かったオレにとってごく自然なことだった。
暮らしている所が海外だと言う事を知ったのは物心ついてから。
高校に入り突如思いたったオレは、夏休みの間中そっちで過ごしたいと言う旨を失礼と思いながらも親戚経由で叔父にお願いしてみた。
海外に興味があったし、何より少しの時間さえも親から離れたい年頃だったから。
ダメもとで頼んだつもりだったが、すぐに“部屋が空いているからいつでも受け入れる”と言う簡潔な答えがオレのもとへ届いた。
向こうで再会した叔父はあの時と全く変わらぬ姿でオレを出迎えた。
短い銀髪、デカイ身体。
ドアが開いた瞬間、懐かしい煙草の香りがした。
叔父は、当時のオレでも知っているような大会社の経営に携わっていた。
忙しそうにはしていたが、毎晩きちんと帰ってきて夕飯を一緒に食べてくれた。
話す内容は少なかったが、粗い言葉の端々には優しさがあった。
優しい人なんだと、その時初めて知った。
小高い丘の上に建つ広い家にはお手伝いさんもいたが、基本的にはふたりだけの暮らしだった。
ある日、叔父はオレを郊外に連れ出した。
着いた先は墓地だった。
ずらりと並ぶ墓石。
その中のひとつの前で立ち止まると、叔父は途中で買った白い花束を置いた。
誰の墓なのかは聞かなかったし叔父も言わなかったけれど、他と比べ少し細い左薬指の理由が分かった気がした。
それから毎夏、オレは叔父のもとへと行く様になった。
語学に堪能な叔父はオレに言葉を教えてくれ、ついでに酒も教えてくれた。
それはその後の人生に大いに役立った。(特に酒は)
高校最後の夏休み。
オレは某有名大学への進学を決めた旨を叔父に告げた。
ただ励まして欲しい、それだけだった。
すると叔父は開口一番
「学歴は何の名声にもならない」
と言った。
ショックだった。
頑張れと励ましてくれるものだと決めつけていたからか、その言葉は今でも鮮明に憶えている。
「幸運を祈る」とは言ってくれたが、結局最後まで励ましの言葉は無かった。
一番に応援してくれると思っていたオレはうなだれたまま国へ帰った。
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