IF…
□始動
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仮入部期間も半ばに差し掛かり、部の雰囲気にも慣れ始めたある日、いつものように練習を見ながらメモ帳を片手に部員達のメモを取っていると、カントクから声をかけられた
「青峰さん」
『はい?ってゆーか、その“青峰さん”ってやめません?言われ慣れてないんで、どーも…』
「じゃあ…なんて呼べばいいかしら?」
『フツーに遥輝でいいですよ』
「じゃあ、遥輝ちゃん?」
『それこそ気持ち悪いんで辞めて下さい。せめて君付けで…』
「それじゃあ、まるっきり男の子みたいじゃない」
『けど、そっちの方が言われ慣れてるんで』
「じ、じゃあ…遥輝君で…」
『はい!あ、で?何か用事だったんじゃ…』
「そうそう!この後、一年VS二年でゲームをしようと思うんだけど、どうかしら?」
『いいですね!』
これまでの練習でもゲームは幾度となく行ってきた
けど、それは一二年混合での話
一年生達が先輩達のチームプレイを観て、感じて経験するのもいいだろう
それに、一年生だけでチームを組ませれば、それまで二年生達に遠慮してゲームをしてきた一年生達の力量もハッキリ分かる
『そのゲームにオレも参加していーですか?見るだけじゃ分からない部分もありますし』
「え?いいけど…」
『何か問題でも?』
「いや、その…バスケってコンタクトスポーツじゃない?だから、胸とか…当たったら…」
『あー、オレは気にしませんよ?どーせペチャパイだし』
ペチャパイなのは事実だが、オレも一応女だ
自分で言って少し悲しくなった…
「あ、いや…遥輝君はよくても彼らが…一応思春期の男子だし…」
『あー…』
言葉を濁して言うカントクの言葉の意味をやっと理解出来た
オレのことも心配してくれたんだろけど、一番の心配は彼らのことだ
『いーんじゃないっスか?』
「え?」
素っ気なく、そう言うとカントクは目を丸くしていた
『ゲーム中、オレを懸念してマークに付かなかったり、オレの胸が先輩に当たって、顔真っ赤にして股間抑えながらうずくまってしまっても、オレは知りません。むしろ好都合ですよ。勝手に自滅してくれるなら、オレもゲームし易いし』
「え!?ちょっ!?」
『一年達は、それを利用してオレにドンドンパスを渡すでしょうね』
「ち、ちょっと待って!?それじゃあ、ゲームにならないじゃない!?」
『そんなことありませんよ?』
「え?」
『先輩達にも先輩としてのプライドがあるでしょう。だから、先輩達の意地を見せるために、点差は開いておきたい。負けるなんて、もっての外でしょう。だから、点差が離れれば、自ずとオレへのマークも厳しくなる。その為には、オレのマークに付かなくても、付くことを恐れたとしても、オレにパスが渡るまでにパスカットすればいいだけの話です』
先輩達はあまり女性経験が少ないウブだと見た
つまり、先輩達はオレに対してガッツリとしたマークは付いてこないだろう
けど、それが狙いだ
一年達は常にフリーなオレに対してパスを回してくるだろう
先輩達は意地となって、オレへのパスを阻止してくるだろう
その二つが合わさった時、本当のゲームとなる
「つまり、遥輝君は起爆剤なのね」
『そーゆーことです。オレはあくまでマネージャーでコーチ。選手達を支え、指導していく。それがオレの役目です』
「なるほど…じゃあ、これが遥輝君の一発目の仕事なのね」
『はい』
「じゃあ、よろしく頼んだわよ!」