HIKARI 短編集

□もしも、主人公が海常高生だったら…
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「遥輝っち!助けて欲しいっス!!」

『デカい図体した男が男に抱きつくな!鬱陶しい!!』




休み時間、トイレに向かおうと教室を出ると黄瀬に抱きつかれた

だが、俺にはトイレに行くという大切な使命がある

しかし、奴はどうあっても離してくれない

むしろ、俺をトイレに向かわせないと言わんばかりに俺の腹部を強く締め付けてくる

そんな状況に周りの女子は羨ましい、カワイイなどと騒ぎ立てている




『(俺はトイレに行きたいんだ!羨ましいと思うなら誰か変わってくれ!!)』




トイレまでの道のりを黄瀬を引きずりながら、向かっていると、見慣れたら人達の姿が目に入った




「何してんだ?」

『森山先輩、笠松先輩、小堀先輩!お願いします!助けて!!』




たまたま移動教室のために居合わせた3年のレギュラー陣に助けを求めた

が、しかし…




「羨ましい!オレも混ぜろ!」




女子に注目されている俺達が羨ましくなり、ならばオレも注目されたいと、森山先輩は助けるどころか輪に加わってしまった




「仲いいなぁ。ちょっと前まで険悪だったのに」




小堀先輩は少し前の出来事を思い出して微笑んでいた

と言うのも、大輝の兄貴と言うこともあって、黄瀬はよく俺に突っかかってきていた

しかし、俺のプレイを見て態度を改めた黄瀬は今では俺に懐く犬のような存在になっていた

って、そうじゃなくて助けろよ!!




「……」




いつもは黄瀬が何かをやらかす度に飛び蹴りを食らわす笠松先輩だが、今日は俺達の周りに笠松先輩が苦手とする女子が大勢いるため、関わらないように遠くから見物していた




『ちょっと!!俺の言葉聞いてました!?トイレ行きたいんすよ!!誰かこのバカ外してくれません!?』




誰かと言っても、この中で1番まともなのは小堀先輩だ

小堀先輩に向かってそう言えば、やっとのことで黄瀬を離し、俺はトイレへと駆け込んだ

用を済ませてトイレから出ると、先輩達は移動教室のため既に姿はなく、俺は再び黄瀬に抱きつかれた




『だが、残念だったな』

「え?何が…」




黄瀬が言い終える前に、始業のチャイムが鳴った




『ホレホレ、教室戻れ』

「〜っ!やけにトイレが長いと思ったらコレを狙ってたんスね!?」

『ああ、残念だったな』




用はトイレに入ってすぐに済んだ

しかし、黄瀬がトイレに侵入して来ない事をいいことに、俺はトイレでチャイムギリギリまで粘っていた




「腹でも壊したんじゃないかって心配して損したっス!!」




プリプリと怒る黄瀬を黄瀬の教室にねじ込み、俺も自分の教室へと戻った




『(しかし、どーするかな…)』




あの様子ではまた黄瀬に泣き付かれる

しかも、この授業の後は昼休みだ

今度は逃げられないだろう

まぁ、そうしたら先輩達に助けを求めるか

女子がいなけりゃ笠松先輩も動けるだろう









そして、魔の昼休みがやってきた




『遥輝っち!今度は逃がさねぇっスよ!!』

「…やっぱり来たか。けどまずは昼飯な。話はそれからだ」




授業が終わると同時に黄瀬は教室へとやって来た

昼飯を持ち、屋上へ向かうと3年のレギュラー陣がそろっていた




「で、遥輝っち!助けて欲しいっス!!」




弁当を広げ、メシに箸を伸ばすと黄瀬が助けを求めて来た




『お前…メシくらいゆっくり食べさせろよ』

「オレにとってはメシより重大なことなんスよ!!」

『俺にとってはメシの方が大切なんだが?』




だが、黄瀬は箸を持つ俺の手を握り閉めてきた

俺がうん、と言うまでメシを食わせないつもりだな…




「で?お前らはさっきから何やってんの?」

「何でそんなに遥輝に助けを求めるんだ?」

『今度の小テストっすよ。そーなんだろ?黄瀬』

「さすが遥輝っち!分かってる!!」




来週行われる数学の小テスト

数学の担当教諭は、厳しいと有名で、今度の小テストについてもそうだった

小テストとは名ばかりで、授業時間丸々を使ってテストを行う

もちろん、テストは100点で満点

テスト範囲はこれまでの範囲全て

合格ラインは80点

それ以下は課題のプリントが用意されており、−10点毎にプリントが増えていく

例えば、70点代の奴はプリント2枚

60点代はプリント4枚

最終的に1桁だったらプリントは14枚になると言う計算だ

そして、テストの結果はその日の内に発表され、70点以下の者には課題のプリントが配布される

しかも、提出期限はテストの翌日

つまり、テストの結果が悪ければ部活や睡眠時間を削って課題に取り組まなければならない




「そーゆーことね…」

「オレ達も昔あったな…」




現在、その数学教師が担当するのは俺達1年のみ

先輩達はその教師のテストを受けることがないが、先輩達も1年の時にそのテストを受け大変な思いをしたと思い出していた




「それで遥輝に助けを求めてたのか」

「そーなんスよ…」

「前回のテストでは、遥輝が95点で、黄瀬が9点だったか?」

『その通りです』




前回のテストで95点だった俺は合格ラインを余裕でクリアし課題はナシ

だが、9点だった黄瀬は課題を山ほど出され、部活も見学しつつ課題をこなし、終わりきらなかった課題を持ち帰り、翌日目にクマを作って現れた




「あの先生、特待だろうが何だろうが容赦ねぇからな…」




黄瀬が在籍するクラスはスポーツ特待生で構成されたクラス

これまでの生活を各々のスポーツに打ち込んできたために、勉学がおろそかになってしまった生徒も多く存在する

だとしても、学生の本分は勉強

スポーツ特待生だろうと例外は認められない

ちなみに、そのテストの課題は1枚ごとに1箇所でも不正解があると、再び課題が配布される

つまり、14枚全てに1箇所づつ不正解が存在すると、再び14枚の課題が手渡される仕組みだ

ゆえに、前回の時は黄瀬のクラスのほとんどが、ループから抜け出せず地獄絵図と化していたらしい

もちろん、黄瀬も例外じゃなかった




「だから、遥輝っちに助けて欲しいんスよ!!」

『ふざけんな!俺だって自分のことで手一杯だ!!』




季節は夏も過ぎ、少し肌寒くなってきた

つまり、俺達はインターハイを終えて、ウィンターカップに向けて日々練習を重ねている真っ最中だ

俺も一軍としてインターハイに出場し、ウィンターカップに向けて猛特訓している1人だ

成績も上位をキープしているが、前回に比べて少し落ちてしまった

黄瀬などに費やしている時間はない




「そんな!ヒドイっスよ!!」

『ヒドくねぇよ!つーか、何で今頃なんだよ!!結構前に言われてたろ!テストやるって!!』




テストをやると伝えられたのは2週間ほど前

なのに、黄瀬はテストを来週に控えた今頃言ってきた




「〜っ!!じ、じゃあ、あの先生がヒドイんスよ!何も今やらなくても…」




確に、あの先生は厳しいと有名だ

だが、あの先生のテストのおかげで、数学の成績が悪かった生徒の成績が上がったり、有名な理系大学に進学した生徒も多く存在するのも事実

それゆえに、他の担当教諭も何も言えないのだ





『先生のせいにすんな!元はと言えば、常日頃から勉強をおろそかにし、テストがあると告げられたのに対処しなかったお前のせいだろう!!』




俺が黄瀬にそうビシッと言えば先輩達は、うんうんと頷いていた




「でも部活が…」

『お前も俺も条件は同じだろ!』




同じ1年で同じレギュラー

条件は一緒だ




「むしろ、遥輝の方が条件は厳しいだろ」

「遥輝は特進クラスだしな」




ウチの学校のクラス分けは、1年次は入試のテスト

2年次からは成績順でクラス分けされる

入試で上位にくい込んだ俺は自動的に特進クラスに入れられ、普通クラスよりも授業スピードは早く、宿題の量も多い

それに引き換え、スポーツ特待生クラスは授業スピードはゆっくりで、宿題の量も少ない




「なのに、特待生を抱えてる部活の監督は担当教諭の先生達に頭下げまくってるよな」




進路のことで相談するために、よく職員室を訪れると言う先輩達は、各部活の監督が頭を下げているのをよく見かけると言う

その内容は提出物が出されてなかったり、授業中に居眠りこいてたとか、成績が悪いとかがほとんどだそうだ




「黄瀬、ウチの監督も例外じゃないからな!!」

「う゛っ!!」




黄瀬もよく未提出物が多かったり、居眠りが多かったり成績が悪かったりで、監督の頭がハゲるんじゃないかと言うほど頭を下げているらしい




「唯一のオアシスは遥輝だそうだぞ」

『俺は監督に迷惑かけるようなことはしてませんから』




俺も少しは居眠りすることはあるが、提出物は期限内に出すし、成績もそこまで下げてはいない

監督からすると、俺は唯一放置しても問題のない生徒だそうだ




『つーわけで以上!後は自分で頑張れ!!』




俺がそう言うと予鈴が鳴った

各自空になった昼飯を片付け、教室へと向かった

俺もショボショボと歩く黄瀬の後を追っていると、笠松先輩に呼び止められた




「黄瀬のことなんだが…」

『大丈夫っすよ。先輩達には迷惑かけませんから』




先輩達もウィンターカップまで残るが、一応受験生だ

黄瀬の勉強に付き合ってるヒマは俺よりない




『今日の部活が終わったら、コレを黄瀬に渡すつもりです』

「コレって…!」




隠し持っていた1冊のノートを笠松先輩に見せると、内容を見た笠松先輩は驚いていた




「コレ、お前のノートか!?」

『いえ、黄瀬専用の対策用のノートです』




そのノートには、これまでの数学の範囲の授業内容がビッシリと書き込まれている




『あいつのことですからね。授業もほとんど寝てるんでしょう。だから、黄瀬用にわかり易く細かく書いてあります』

「スゲーな…いつの間に…」

『多少睡眠時間を削りました。俺は数学が苦手でも嫌いでもないですからね。復習も兼ねてやってたら、結構簡単にできましたよ』

「…あいつにお前の全身のアカを煎じて飲ませてやりてぇよ」

『アハハ…あいつに頼るわけじゃないっすけど、あいつは紛れもなくウチのエースです。大切なウィンターカップ前にエース不在じゃ締りがないですからね』




俺も笠松先輩も他のメンバーも黄瀬に頼りっぱなしじゃいけないとわかっているし、頼りっぱなしになるつもりもない

けど、ウィンターカップには黄瀬の力が必要になる

黄瀬はウチのチームにとって欠かせない存在だ

だったら、そのためには俺は睡眠時間を削ってでもフォローする




「まったく…頼りになる後輩だよ」

『その報酬は優勝旗でいいんで』

「バカ!お前も一緒に取りに行くんだよ!!」




その後、俺の対策ノートを参考にした黄瀬は合格ラインには届かなかったが、50点代と史上最高得点を取り、課題を何とか6枚にとどめ、ループ地獄も1回で終わらせた

そのおかげで、部活にも大きな支障を出すことなく俺達はウィンターカップへと望んだのは後のお話…




「ありがとう!遥輝っち!!」

『報酬は1ヶ月分のアイスおごりな』

「お安い御用っス!!」




end
 

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