HIKARI 短編集

□お電話です
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これはまだ俺がイギリスにいた頃の話



その日はテストも近いと言うことで、レオンとリュウとで俺の家、もとい、おじさんの家で勉強会をしていた




〈リュウ!さっきから全然進んでないぞ!!〉

〈だってぇ…〉



勉強に飽き始めたのか、リュウの視線がウロチョロしている



〈この部屋、誘惑が多すぎなんだって!〉



リュウの視線の先はゲームやマンガだ

いつもなら、誘惑を避けるために、誘惑が少ないレオンの部屋でやるのだが、今日は来客があるそうで急遽俺の部屋でやることになった

ちなみに、リュウの部屋は誘惑しかないためアウトだ



〈いいから、さっさと進めろ!!〉



またも視線が動いたため、レオンは無理矢理リュウの視線をノートに移した




〈誰のための勉強会だと思ってる!〉



それは全てリュウのためだ

今まで何とかリュウの成績を保ってこれたのは、この勉強会のおかげだ

そうでもしなければ、リュウの成績は悲惨なものだろう



〈遥輝!〉




そんな時、下からおじさんが呼ぶ声が聞こえた



《何?》

〈さつきちゃんから電話だぞ!〉



それは、さつきからの電話を告げるためだった




〈さつきちゃん!?誰ソレ!?〉



勉強に飽きたリュウは普段聞き慣れない名前に興味津々だ



《誰でもいーだろ!》

〈気になるじゃん!彼女!?〉

《ちげーよ!!》




勉強そっちのけで、しつこく聞いてくるリュウを押さえ、部屋から出てった




〈って言ってるけど、どー思う?〉

〈ほっといてやれ…〉

〈えー!レオンは気になんねーの!?〉

〈気にならなくはないけど…〉

〈じゃあ行こうぜ!〉

〈行くってどこへ?〉

〈盗み聞き!〉

〈バッ!やめろ!本気で怒られるぞ!〉




なんて会話が行われているとは知らず、俺は受話器に手を伸ばした




『もしもし?』

「あ、遥ちゃん?」

『どーした?こんな時間に』




イギリスは今、午後の1時

日本では午後の10時だ




『また大輝が何かしでかしたのか?』




さつきが電話をしてくる時はたいがい、大輝が何かしでかした時くらいだ




「そーなの!もう、聞いてよ!!」




さつきはご立腹のようだ




『で、大輝は今度は何をしでかしたんだ?』

「最近すっごく冷たいの!」

『冷たいって、さつきに対してか?』

「そう!私だけに対して!バスケ部のみんなと話してる時はニコニコしてるのに、私と話してる時は冷たいんだよ!?」




まあ、大輝の気持ちも分からなくはない

たぶん、大輝は女子(さつき)と仲良く話していることが恥ずかしくなったんだろう

男では、よくある話だ

ましてや中学生にもなると、周りの男子からチャカされることもあるしな

だから、大輝は照れ隠しをするために、さつきに冷たく接するようになったんだと思う

けど、一方さつきは、今まで時を一緒に過ごして来た大輝に突然冷たくされたから、それが気に入らないんだろう




『まあまあ、そう怒るな。大輝も大人になりつつあるってことだよ』

「わからなくもないけど…」




さつきは少し寂しいんだろうな…




『大丈夫だよ。二人でいる時は冷たくしないと思うから』

「そうかなぁ…?」

『そうだよ』




さつきとそんな話をしていると、何やら後ろでコソコソと話す声が聞こえる

たぶん…と言うより確実にレオンとリュウだ




〈俺がいない間、浮気してないか?…私がするわけないじゃない!…そうだよな。お前は俺が好きだもんな…そうよ、私は遥輝が大好きなんだから…俺もお前のことが好きだよ…愛してる?…当たり前だろ?〉

〈本当にそんな会話をしてるのか?〉

〈なんだよ!俺の通訳が間違えてるって言いてぇの!?〉

〈いや、そんな風に会話してるようには見えないから…〉




耳を澄まして聞いてみれば、そんな会話を繰り広げている

俺がクルッと二人の方を向くと、リュウは俺に気付かれていないとでも思っていたのか、顔を青くした




《誰が通訳しろって言ったよ!?しかも、デタラメな通訳すんじゃねぇ!!》




俺がそう怒鳴るとリュウは体を縮めた

もちろん、さつきがビックリしないように受話器は少し離してある




〈やっぱりデタラメだったか〉

〈あまりにもフツーな会話だったから、楽しくさせようとして…〉

《せんでいいわ!!そんなことしてるヒマがあんなら、さっさと勉強して来いっ!!》

〈すみませんでしたー!!〉




逃げるように部屋へと向かったリュウを確認すると、大きくため息をついた




〈ジャマして悪かった。さつきさんにもそう言っておいてくれ〉

《ああ、わかった》




レオンもリュウの後を追うように部屋へと向かうと、オレも受話器に耳を当てた




『悪かったな』

「ううん。大丈夫」




そう言うさつきは何やら受話器の向こうでスクスクと笑っている




『…何だよ』

「遥ちゃん、楽しそうでよかったって思って。正直心配だったんだよ?遥ちゃん、イギリス行く前は何か思い詰めてるみたいだったから…」





さつきの言う通り、俺はイギリスに行く前は今の生活が嫌で笑顔が少なくなっていたと思う

さつきの前だけでもと思って、笑顔でいるつもりだったけど、ちゃんと笑えていなかったのかもしれない





「それに何でも言う大ちゃんと違って遥ちゃんは一歩下がって見守るタイプだったでしょ?言葉も通じないような国に行って大丈夫かな?って心配してたの。けど、今のを聞いたら大丈夫そうだね」

『ああ、初めは大変だったけど、日本語喋れる奴もいたし、何とかなったよ。今ではだいぶ慣れて楽しくやってるよ』

「そっか…」




だが、まだ気がかりなことがあるのか、さつきの声が少し小さくなったように感じた





『どうかしたか?』

「んー…何か遥ちゃんが遠くに行っちゃったような気がして…ちょっと寂しいな…なんて」

『…バカなだな』

「ちょっと!そんな言い方しなくても…」

『確かに、日本とイギリスじゃ離れてるけど、今の時代じゃどんなに離れててもこうやって会話をすることができる。それにもう二度と会えないワケじゃないんだ。…まだ日本に帰るつもりはないけど、俺は必ず日本に帰る』




日本に帰って大輝を、両親を、チームメートを驚かせてやるんだ

成長した俺を…




「そうだね!その日を楽しみにしてるね!」

『ああ、なるべく早く帰れるようにするよ。もう、そっちは夜だろ?早く寝ろよ?』

「うん、ありがとう!おやすみ、遥ちゃん」

『ああ、おやすみ』




受話器を置くと、俺は改めて決心した

日本に帰りたくないワケじゃない

むしろ、何度か日本に帰りたいと思ったこともある

けど、まだ時期じゃない

俺はまだまだだ




《勉強進んでるか?》




早く強くなって日本に帰るんだ…!




end
 

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