短編

□If I could say what I want to say…
1ページ/4ページ

エリア11総督にして第87位皇位継承者である、ナナリー・ヴィ・ブリタニアからナイト・オブ・セブン 枢木スザクが呼び出されるのは今日に限ったことではない。
何か口実を見つけては招じられる。
ナナリーの口実は大まかに分類して3つだ。
ひとつは軍務。
ひとつは茶会。
ひとつは寂しくて、どうしようもないとき。


たとえどんなときだろうと、スザクはナナリーの呼び出しに応じた。(もともと無茶な招集を掛けたりはしなかったが。)
自分が護るべき、最後の人だからだ。
裏で非難する者もいるようだが、ナンバーズと呼ばれ蔑まされてきたスザクにとって、今更気にするようなことではなかった。
皇族批判として罰せられることを恐れて、ナナリーの耳に入ることはないので、尚更どうでもいいことだ。
それに、『皇女の男』と呼ばれることは、彼女の後ろにはナイト・オブ・セブンがいるということを示唆しているのであり、皇位継承権の低い彼女を護るいい材料にもなった。


今日スザクが呼び出されたのは、茶会のお相手のためだ。
補佐官兼お目付役のミス・ローマイヤーから逃れられる数少ない時間に、ナナリーはいつもスザクとふたりきりで過ごすことを望んだ。
本国では各国を飛び回っていたため、あまりふたりだけの時間を持つことはできなかったが、エリア11に戻ってきてからは、頻繁ではないにしろ、多くの時間を共に過ごせるようになった。
ナナリーはそのことを喜んだし、スザクもまた、そんな彼女を見て安心できた。
自分は彼女に必要とされている。
そう感じられることが幸せだった。


行政特区日本の再建。


先日、ナナリーが総督就任挨拶でした宣言だ。
スザクは驚いた。
護られるだけの立場であったナナリーが、総督としてエリア11に行きたいと申し出たときにも驚いたが、またしても彼女が自分の意志で行おうとしていることに、動揺を隠しきれなかった。


(ナナリーは、ユフィの遺志を継ごうとしている。)


彼女が自分の同志であるという喜びを感じると同時に、もう護られるだけの少女ではなくなったのだと、スザクは寂しさを覚えた。


「それでね、アーサーったら…、スザクさん?」
ぼんやりしているスザクに気が付き、ナナリーは心配そうに声を掛けた。
スザクはいつの間にか自分が思考の渦に飲み込まれていたことに気づき、一生懸命に話をしてくれるナナリーに対して申し訳なく思った。
「ごめん、ナナリー。ぼーっとしちゃってた。」
自嘲し、素直にナナリーへ謝罪する。
彼女は”いいえ”と言って首を横に振った。
「スザクさん、軍と学校の両立でお疲れなのに、無理に誘ってしまってごめんなさい…」
「謝らないで。僕はこうして、君の傍にいられることが嬉しいんだから。」
自分の態度を疲れのためだと受け取ったナナリーに謝られ、スザクは慌てて否定する。
その言葉にほっとしたナナリーは、スザクの手にそっと自分のそれを重ねた。
「私はスザクさんに頼ってばかりで…。私が安心できるのは、もうあなたの傍だけだから。」
寂しそうに告げるナナリーの自分に重ねられた手を、もう一方で包み込むように触れる。
「大丈夫だよ。僕は、ずっとここにいる。」
穏やかで優しいスザクの声に、ナナリーは”はい”と嬉しそうに頷いた。
「早くお兄様に逢えたらいいのに。そのときはまた、3人で暮らしましょうね!」
満面の笑顔を浮かべる彼女に、スザクはそうだねと呟いた。


ナナリーの目が見えなくてよかった。
そうでなければ、今にも泣いてしまいそうな無様な顔を見せて、心配させてしまうから。


スザクはナナリーに気が付かれないよう、安堵のため息を零した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ