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「ねぇ美雪ちゃん、BLってどう思う?」
ここは私の家。そして今は優花と二人で明日の数学の宿題を片付けていた所だ。
普通そんな時にいきなりBL云々と質問をされれば、誰だって吹き出してしまうだろう。だが私も伊達に優花と友達をやっていない。そんじゃそこらの事では笑わないスキルは当の昔に修得済みだ。
「そうだな……良いんじゃないか?世間では同性愛は余り認められていないが、その二人が愛し合っているならたとえ性別が同じであろうとも……それに当事者の問題であって周りが口出しするものでも無いしな。」
「ふーんそっかそっかぁ……」
何やら意味深な態度が気にならないと言ったら嘘になるが、どうせ優花の事だから聞いたところで教えてくれまい。もし重要でないことなら、あの形の整った綺麗な唇が今頃勝手に動き出しているに違いない。
そんなどうでもいい事を考えつつ適当にペンを進めていたが、ふと時計を見上げると短針は既に7時を指しており窓の外もすっかり暗くなっていた。
少し前であればこれから我が家で優花をご馳走しようかという所だが、生憎夏も終わってしまい丁度いいくらいの秋風が吹き始めたため日が暮れるのも早くなった。
優花と私の家は比較的近所なのだが何かと物騒な世の中なため、外見も中身もか弱い優花がこの夜道を一人で歩くのは不審者にとっては鴨がネギと鍋とコンロを背負って来る様なものだ。
なので私はいつも送って行こうと打診するが優花は私の身を案じてか断って来る。
まぁ私ならば多少の相手なら返り討ちに出来るくらいの武術の心得はあるが。
取りあえず断られる前にと先手を打とうと立ち上がろうとした。
「じゃあ優花、そろそろ時間だから私が―――――ってどうしたんだ優花?」
「ほぇ?……あっなんでもないよっ!うん!」
何かあったのだろうか。優花がぼーっとしてるとは……もしかして……
………
……
「もしかして優花は…………まだBLが気になっているのか?」
「えぇっ!?それは違うんだよ美雪ちゃんっ!あれはただ今日の放課後楓ちゃんが"どーじんし"っていうのを描いていて『いい事思い付いた。優花、一緒にや・ら・な・い・か』って言ったから、ちょっとどうなのかなって思っていただけで……」
そういうのを"気になる"と言うのだが……
明日楓を血祭りに上げる予定を加えておくのも忘れない。
「はぁ、分かった。じゃあ優花は何を考えていたんだ?」
「え、えーっとね?あのぉそれは………………………おっ乙女の秘密だよ!てへっ☆」
そこまで焦らされると余計に気になってしまうじゃないか!てへっ☆………………私が言うとキショいな。
「そんなこと言わないでおくれ。それとも優花は私のことが嫌い……なのか?」
「いや、そんなことないよっ?だけどさぁ〜恥ずかしいんだもん〜」
ちっ……情に訴え掛ける作戦は失敗か。こうなったら意地でも聞いてやろう。
「ほらオジサンに話してごらん。スッキリするから。」
「えーでも……」
「だから――」
「でも――」
――――――――――
暫くお待ち下さい
――――――
「分かったよ〜言うよ。さっきはただ好きな人の事を考えていたんだよ。」
「なんだ好きな人の事を考えていただけか。好きな人の事をねぇ…………………ん?」
いかんいかん。最近忙しくて疲れが溜まっていたせいか、おかしな幻聴まで聞こえる様になってしまったみたいだ。
「悪い。今なんて言ったんだ?」
「だーかーらー好きな人の事だってばー。恥ずかしいから何度も言わせないでよー。」
優花は軽く拗ねた顔をしていたが、今の私にそれを気にする余裕など1ミリも持ち合わせていなかった。
「あ、もうこんな時間だ!あたしそろそろお家に帰るね。じゃっまた明日〜。」
暫く思考が停止していた。
そのため私が気付いた時には既に優花は私の家を出て行った後だった。