09/23の日記

12:38
『さびしさなんて知ったこともないくせに』プラハ+ゼロで小 話(B/M AD)
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 じゃあね。とあたしが手を振ると、ちいさな弟はあたしの顔をじっと見詰めながら。大きな目を見開いて、じゃあね。と、あたしに繰り返した。
 そのまん丸い瞳に、ばかじゃないの。と心の中で呟いて、あたしは弟を閉じ込めた、牢獄の扉に鍵をかけた。扉の中は、もう覗けないけど。ちいさなばかな弟は、まだあの丸い大きな瞳を開けて、あたしが隠れた扉の向こうをじっと見ているのだろう。


 ばかじゃないの。ばかじゃないの。泣いて叫べば、あたしだって門番に言い付けて、弟がうるさいから牢獄をなんとかしなさいよ。って。お母さんにだって伝えられるのに。
 嫌だ嫌だ、って。大きな声で泣き叫べば。メフィスト・フェレスの直子に、どんな無礼を働いたの。って。門番に待遇を変えさせることだって、出来るのよ。


 でも、あたしのちいさな弟はそんなことしない。たぶん、考えたことだって、ない。
 だからあたしが。
 …あんたのために、何が出来るか。って。考えてることだって、わかってないのよ。

 扉の向こうで、かたん。と音がする。ちいさなあたしの弟が、手を床に落とした音だ。律儀にも、今の今まで、あたしに向けて振った手を、上げたままだったのだろう。
 ばかじゃないの。
 そのまま泣いてしまいなさい。そうしたらあたしは、走っていって、あんたを泣かせるなんて。なんてことなの!って。門番に文句を言ってやるわ。お母さんにだって、怒鳴り込んであげる。なんなら、今夜一晩、あたしが一緒に泊まってあげたっていい。

 だけど、あたしの弟は馬鹿だから。何も言わずにぼうっと座ったまま、鼻をすするそぶりだって見せやしない。
 きっとあの丸い目を見開いて、また明日あたしが様子を見に来るまで。ずっとそのまま、座っているのだ。




 ばかじゃないの。ばかじゃないの。あたしの、ちいさな弟。
 ひとりぼっちのちいさな弟。あんたが泣きさえすれば、あたしはいつだって駆け付けるのに。ばかじゃないの。あたしは、なんてばかなんだろう。



 さみしさの意味さえ知らない。あたしの、ちいさな弟。
 あたしはそれが寂しくて、あんたを助ける理由を探すの。





××

お題提供lis

プラハお姉様とちびゼロ。
ちびゼロは、『胡蝶の夢』よりさらに小さい頃のイメージです。

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